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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

 

第三十一話



〜2−D・将姫〜



雪姫が熱を出した事件からしばらくは何も起こらなかった。
何事もなくゴールデンウィークも過ぎ、やがて六月、うっとしい梅雨の季節になった。
今日も朝から雨が降っていた。
ここ数日と比べても湿度も高い気がする。空気がベタベタするような感じだ。
そして蒸し暑いけれど冷房が入るほどでもない、という嫌な気温。
こんなんじゃとても授業なんか集中できない。
ケチケチしないで冷房いれろよなー・・・などと考えつつ、
窓の外のどんよりとした空を眺めていた。

チャイムが鳴って二時間目の授業が終わった。
ふう、まだ二時間目かぁ。
早く昼休みになってくれ〜。
「理奈ぁ、暑いよー。」
隣りの理奈に愚痴る。
「暑い暑い言うな。よけい暑くなる!」
「だって暑いだもん。」
「『もん』はやめなさいって。」
「今日の理奈ってツッコミきつい。」
「そう?暑いからイライラしてるだけ。あー!もう、冷房入れろっての。」
教室の不快指数は増加中みたいだ。
暴動がおきないうちに冷房を入れるべきだと思う。

「何ケンカしてんの?」
ウチのクラスでもう一人の演劇部員、井上 理沙(いのうえ りさ)がやってきた。
「別にケンカしてるわけじゃーないけどね。理奈がいじめるの。」
「人聞き悪い事言うな。」

理沙は苦笑混じりに理奈の肩に手を置いて言った。
「はいはい、落ち着いて。」
「あ〜あ。なにもかもこの暑さが悪いの!」
そう言うと理奈は机に突っ伏した。

「まあまあ。そうだ、それじゃ私が涼しくなる話をしてあげよう。」
「ま〜た、寒いギャグをかますだけじゃないでしょうね?」
理奈がウンザリしたような表情で理沙を見る。
そう、この理沙という人、いい子なんだけど極低温なギャグセンスの持ち主なのだ。
使い古されたダジャレでも爆笑できるらしい。
でも、今回は違ったようだ。
「違うってば。私もついこの間、聞いたんだけどね・・・」
「え、なになに?」
私も身を乗り出す。

「実はね、今年度に入ってから、この学校ってよく出るらしいよ。ウチを警備した人が、四月から次々とやめていってるんだって。
おかげで深夜警備を依頼してる会社を変えなきゃいけなくなっちゃったんだってさ。どう?」
「うーん・・・どうっていわれても。」
「いまいちだね・・・。」
理奈も素っ気無い。
そりゃ、校舎に閉じ込められていろいろ見ちゃった理奈としては、いまさらって感じだろうね。
でも、その噂は私もどこかで聞いたような気がした。

「何よ、その薄い反応は。つまんないの。」
不服そうに口を尖らせる理沙。話す相手が悪かったね、お気の毒でした。
でも、ちょっと気になったので聞いてみる。
「あはは、ごめんごめん。ところでその噂って結構有名なの?」
「うん、なんせ四月からだから、だいぶ広まってきてるみたいだよ。
なんでも、夜中に面白半分に胆だめしした人が何人もいるらしいんだけど、
やった人はみんなその話をすると真っ青になって嫌がるんだって。」
「ふぅん・・・・。」
「なんか真実味があるよね〜。」
理沙は腕を組み、うんうんと一人うなずいている。
その時、英語の先生が入ってきた。いつの間にかチャイムがなっていたみたいだ。
「あっ、それじゃまたあとでね。」
席にもどっていく理沙の後姿を見送りつつ、私は放課後の事を考え始めた。
他に手がかりもない事だし、どれ、私も胆だめしとやらをやってみようか。


〜放課後・将姫〜



放課後、終礼終了と同時に2−Aまでダッシュして雪姫のところに行った。
「・・・姉さん、何するつもりなの?」
「あ、ちょっと面白い噂を聞いたからね。この学校、四月から幽霊かなんかがよく出るってさ。」
「・・・そんな噂になるほどでるの?私たちが闘った連中と関係があるの?」
「さーね。それを今から確かめようってわけ。」
「・・・わかったわ。」
で、学校探索となるわけだけど、理沙の話だけでは手がかりが少なすぎるので新聞部に行ってみる事にする。

新聞部のドアをノックすると一年生の男の子が顔を出した。
「あ、御劔さん。なんですか?」
「不破さんはいる?」
授業をサボった時に屋上で知り合った不破 焔は新聞部員だったのだ。
以来、時々新聞部に顔を出しているうちに部員とも顔なじみになった。
「不破先輩なら学食でなんか飲んでくるって言ってましたよ。」
「そう、ありがとう。」
男の子に礼を言って学食に向かう事にする。
あ〜あ、また校舎の二階に逆戻りだ。

夕日に染まった学食に入ってみると人はあんまりいない。
あたりを見回してみると缶コーヒー片手に手帳とにらめっこしてる、
なんかオッサン臭い女生徒を発見した。焔だ。
「お〜い。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
近づいていって声をかけると、焔は顔を上げた。
「ん、なに?」
「あのさ、四月あたりから学校になんか出るって噂、知ってる?」
「ああ、その話ね・・・」
話を区切り、手帳をパタンと閉じてコーヒーを一口飲んでから、焔は続けた。
「もちろん知ってるよ。」
「おっ。さすが!詳しく教えてくれない?」
「だ〜め。」
「え〜、どうしてよ。」
「もうすぐ夏でしょ?来月号の夏期特集に使うんだから。」
「誰にも言わないからさ、お願い!!」
「う〜ん・・・」
焔はしばらく考え込むと、ニヤリと意味ありげに笑って口を開いた。
「わたし、お腹減っちゃったな〜。」
う、このアマ、たかるつもりか。
足もと見やがって・・・。
ここはしょうがない、何か買ってくるしか・・・
と思ったらいつの間にか横の雪姫はサンドイッチをぱくついていたのだ。
私は雪姫が持っているパックからひょいと一切れ取り出して焔に差し出した。
「・・・・。」
雪姫が無言でこっちを見る。
これも任務の為だ、我慢してくれぃ。

「ま、よかったらこれでも食べて。」
「アンタね、人のもの勝手に取るなよ・・・ま、もらうけど。矢部、ゴメンね。」
「・・・・・・。」
無言で頷く雪姫。私は焔を急かす。
「さあさあ、話して話して。」
サンドイッチをほおばりながら焔は頷き、口の中のものを飲み込むと、おもむろに話し始めた。
「まあ、私もこう言う話は結構好きだからノリノリで調べてみたんだけど・・・
これがまた、出るわ出るわ七不思議なんてもんじゃないね。」
「ほうほう。」
焔の怪談が始まるのだった。

To be continued...

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