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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

 

第三十二話

 

〜学食・将姫〜



本人の言うとおり、ホントにこの手の話が好きなのだろう。
焔が学校中で集めてきた話は手帳の三分の二ほどを埋め尽くしていた。
その中から、今年度あたりに初めて噂になり始めたものを
ピックアップして聞かせてもらうことにする。

「まず、夕方、運動部の練習が終わって誰もいなくなった直後の体育館で
 ボールが独りでにスポーツしてる、って奴だね。」
「な、なにそれ?」
「うんとね、片付けたはずのネットがいつの間にか出てて、
 そのコートを勝手にバレーボールが跳びまわっていたり、
 バスケットボールが独りでにドリブルして自分からゴールに飛び込んでいたりするらしいよ。
 噂の出所はもちろん運動部の人たちだね。これがまた、見たって言う人もざっと10人弱。」
焔は手帳を見ながら事細かに説明してくれる。
「はぁ・・・ずいぶんとまぁ健康的な幽霊だね。」
私の率直な感想に焔は苦笑いで答える。
「そう言われるとあんまり怖くなくなっちゃうなあ・・・でも!まだまだ、こんなの序の口さ。ふっふっふっ。」
不敵に笑いつつ話を続ける焔。
さてさて、どんな話があるのやら。

「お次は深夜の校庭。手足やら頭やらが無い人の群れを見たって言う人が何人かいるね。
 これで警備員の人は何人かノックアウトされちゃったみたい。」
「お、これは結構怖いね。」
「・・・とか言ってあんまり怖くなさそうだけど・・・。
 ま、とにかくそれで昔ここの校庭で何か事件が無かったかを独自に調べてみたの。
 そしたらね、この校庭の一角には昔、防空壕があってね、
 運悪くそこに爆弾が直撃したらしいんだよね。」
「おー、因縁話もついて本格的だね。」
やっぱり、こう言うのってどこの学校にもあるんだ。
「・・・アンタたちってホントに怪談の話しがいの無い人たちだね。」
焔はあきれたように私と雪姫の顔を見てため息をついた。
「ごめんよ〜。次からリアクション気をつけるからさ。ね、機嫌直して。」
ま、私は怪談なんか怖くないし、雪姫に到ってはリアクションなど期待するほうが間違い。
これほど怪談を聞かせて面白くない相手もいないかもしれない。
焔は完全にすねてしまったようだ。
「ふん、気を使ってもらわなくて結構。話はまだまだあるんだからね!」
あ〜あ、意地になっちゃった。まあ、話す気を無くされるよりはいいかな・・・。

ムキになった焔はすごかった。
話すこと話すこと、ネタの続くく限り放出し続けた。
よくもまあ集めたもんだとあきれるほど話は続く。この子は生粋の新聞部員だね。
誰もいないはずのトイレで物音を聞いたというような些細なものから
校舎で焼身自殺した生徒の霊が苦悶の声と共に現れるとか言う
ホラー級の話まで留まる事を知らなかった。
うーん、こんなに怪談がある学校ってのも嫌だけどな。

・・・落ち着いて考えたら、この量は異常じゃないか?というあたりまえな疑問が浮かんできた。
その旨を焔に伝えてみる。
「ねぇ・・・今まで聞いた話ってホントに今年度に入ってから噂になった話だけなの?」
「うん、私の情報網を尽くして集めたからね〜。
 噂にならない程度のちっちゃな話も結構混じってるけどさ。」
「それにしてもなんかさ・・・多すぎない?」
それには焔も大きく頷く。
「そうそう、それだよそれ。
 昔から伝わってるような話を全部集めたのに匹敵するぐらいの新しい話が
 この数ヶ月で生まれてるんだよね・・・私も何かあるんじゃないかと思って・・・。」
まあ、あるといえば当然あるわけなんだけど。
「不思議な事もあるもんだね・・・。焔、今日はありがと。」
「あーあ、こっちもついつい調子に乗って話しすぎちゃった。今日の話、広めないでよ!!!」
「もっちろん。じゃ、またね!」
「うん、またね。なんかいいネタあったら真っ先にお願いね。」
「わかってるって。じゃ、雪乃、いこうか?」
雪姫がうなづいて立ち上がる。わたしたちは焔に手を振り、二人で学食を出た。
これはやっぱり調べてみる必要がありそうだね。
十中八九ヒットな気がする。
私は校内心霊スポット(?)をどう回るか考え始めていた。
すると、めずらしく雪姫が自分から口を開いた。
「・・・姉さん。」
「ん?なに?」
立ち止まって雪姫を見る。
雪姫は表情ひとつかえずに
「・・・・・・卵サンド、最後に取っていたのに。」
と、のたまった。
「・・・・・。」
言い知れぬ恐怖に捕らわれて硬直する私。
そして無表情にこちらを見つめる雪姫。

「ご、ごめん・・・ほら、帰りにあそこのおいしいパン屋で卵サンド買ってあげるから!!」
食い物の恨みは怖い。このままでは朝食抜きにされかねないと恐れた私はあわてて言いつくろう。
雪姫は無言で頷いた。なんとか許してもらえたらしい。ふうぅぅ。
「さ、その話はおいといて、心霊スポットめぐりしないと!!」
「・・・ええ。」


To be continued...

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