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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

 

第三十八話

 

〜校内庭園・井村亜希子〜



朦朧としてくる意識の中でなんとか顔を上げると、
相変わらず悪魔はバインド相手に苦戦しているし、獣もインフェルノと睨み合っている。
十メートルほど離れたところで、長谷川さんは苦しそうに肩で息をしながらこちらを見つめていた。
「・・・次こそトドメですね・・・。」
「いや・・・やめて・・・。」
もう私には戦意など残っているはずもなく、頭の中は死に直面した恐怖だけだった。
立ち上がることが出来ないのは傷のせいなのか足がすくんでしまったのか・・・両方かもしれない。
私、死にたくないよ・・・。
「もう、やめて・・・お願い。」
しかし、無言で長谷川さんは黒の聖書を開き、呪文を唱え始める。
「亡者を焼き尽くす地獄の業火よ、その力をもて我にあだなす者を焼き尽くせ!」
唱え終わった瞬間、私を取り囲むように赤く輝く円が地面に描かれたかと思うと、
炎が吹き出して私を覆い尽くそうとした。
「!!!」

とんでもない熱さに思わずきつく眼をつむってうずくまり、本当にもう終りだと思った・・・
しかし、急に熱が全く感じられなくなったので薄く目を開けると、炎は跡形もなく消え去り、
視線の先には苦々しい顔をした長谷川さんが見えた。
「くっ・・・やっかいな・・・やっかいなものを・・・連れていますね、あなたは。」
そうか、デプスが・・・。
私の周りを回っているデプスが炎を吸い込んでくれたのだろう。
デプスは、『深淵』の名が示すとおり、私に害をなすものを引きずり込む。
生命体は無理だけど、それ以外なら大抵のものは吸い込めるはずだ。

不意に、長谷川さんがガクッと片膝を付いた。
「・・・うぅ・・・呪力を・・・使いすぎた・・・?」
さっきよりいっそう息を荒くして喘いでいる姿はとても苦しそうだ。
「アンドラス!バンダースナッチ!・・・はやくトドメを!」
長谷川さんが珍しく声を荒げた。あちらもあまり余裕がないのかも知れない。
しかし、悪魔も獣も未だに悪戦苦闘中だった。
「ぎょ、御意・・・しかしなかなか・・・おのれっ!!」
相変わらずもがいている。
獣も低く唸ってインフェルノを威嚇するだけだ。
「・・・くっ・・・ここまで来て・・・。」
しかし、私もそろそろ意識を保つのが限界に近づいているのを感じていた。
もう、だめ・・・かな・・・お父さん、お母さん・・・雄馬君・・・。

その時、薄れゆく意識の中で悪魔が叫ぶのが聞こえた。
「・・・何者かが結界を破ったようだ!おそらくは・・・彼女たちでしょう。」
「・・・マズイですね・・・。二人とも元の姿に戻りなさい!
 井村さん・・・必ず・・・必ずアイテムはいただきますよ・・・!」
憎々しげに私を睨み付けると、
長谷川さんは鳥の羽を取り出して一言何か唱え、その姿を消してしまった。
悪魔はカラスに、獣も元の犬に姿を変えてどこかに逃げ去った。
彼女たち・・・あの子達のことだろう・・・私も霊縛輪を隠さないと。
腕の霊縛輪を消すと、インフェルノ達も元の用具に戻って地面に落ちた。
もう、限界だ・・・近づいてくる足跡を聞きながら私の意識は遠のいていった・・・。



〜生徒指導室・雪姫〜



不意に、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ〜。」
献姫が答えると、ドアが開き、先ほどの篠原という教員が顔を出した。
「先生、私はそろそろ帰りますが、そちらはまだかかりそうですか?」
「ええ、もうちょっと。」
「そうですか。他の先生方もみんな帰られましたので、あとお願いします。」
「はい、わかりました。」
「それじゃ、お邪魔しました。」
「いえいえ。それでは。」
献姫はにっこりと笑って挨拶を返し、それに倣って私もいちおう会釈をしておく。
篠原の足音が遠ざかっていき、ドアが閉まる音がした。
「先生方みんな帰られたみたいだし、そろそろ私たちも行きましょうか。」
「・・・ええ。」
私たちは生徒指導室を出て、鍵を納めるロッカーの所へ行った。
「ええっと・・・どれだ〜。あ、あなたは先に出ていて。どうせここも施錠しないといけないから。」
頷いて私は先に職員室を出て廊下で待っていた。
しばらくすると、職員室の電気が消えて献姫が出てきた。
「じゃ〜〜ん、これよ。マスターキー。」
黄色いプラスチックの札が付いたやや長めのカギをつまんでブラブラしてみせる。
「・・・急ぎましょう。」
「はいはい、わかってますって・・・。」
職員室に施錠してから私たちは昇降口を出た。

「で、どこから行くの?セキュリティーのスイッチは切っといたからどこでも入れちゃうわよ。」
「・・・まず、体育館・・・・!」
そこまで言いかけて、何か強い力を感じた。
献姫も感じたようで、表情が引き締まる。
「あっちの方かしらね?」
そういって校舎前の庭園の方を指した。
私も同じ意見だったのでそちらに向かって駆け出す。
庭園に近づくにつれて嫌な気配が強くなってくる。
奥へ踏み出そうとした時、なにか妙な感じがしたので立ち止まってみる。
そして、後を付いてきた献姫が私を追い越して三歩ほど踏み込んだ。
「あいたっ!!」
声を上げ、ビクッと反射的に後ずさる献姫。
「くぅう・・・ビリッと来た・・・もう!なぁに?結界?」
「・・・みたいね。」
「どうやら・・・私たちの探している誰かさんがいるみたい。」
献姫はそう言いながら常に右手にはめている手袋を外し、
その下の金属光沢を放つ手を現わにした。
これが彼女のアイテム"決意の義手"だ。
私も極寒の弓矢を召喚する。

「それじゃ・・・私が結界ぶっ壊すわよ。」
そう言って構えを取り、右手を開いて指を真っ直ぐ伸ばす。
「はあっ!」
短い気合いと共に指が結界に突き立てられる。
火花が飛んで、バチバチッ!と激しく何かがはじける様な音がする。
そこから、引きちぎる様に強引に右手を振り下ろすと
パァァンという音と共に、結界の力場が霧散した。
「・・・いきましょう。」
「ええ。」
庭園の奥に駆け込むと、中央あたりに誰かが倒れているみたいだ。
私は付近を見渡していると、その間に献姫が倒れている人にゆっくりと近づいていく。
その後に付いて私も近づいてみると、それはこの学校の制服を着た少女であることが分かった。
暗くてよく分からなかったが、彼女自身とその周囲は血まみれだった。
「ちょっと、あなた大丈夫?!」
献姫が地面に膝をついて彼女を抱き上げ声をかけているが、既に意識は無いようだ。
「どうやら息はあるみたいね・・・それにしてもひどい怪我、
 まるで狼か何かの群れに襲われたみたい。
 早く救急車を呼ばないと。あなたは将姫さんに連絡いれたほうがいいわね。」
私は携帯を取り出して将姫姉さんに電話をいれることにする。
献姫も同様に携帯で119番をしたようだ。

・・・いったい何が起こったのだろう。


To be continued...


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