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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第四十一話

 

〜2−D・将姫〜



教室に入ると、中はいつもにも増して騒がしかった。
理奈の席の周りにも何人か集まって話し込んでいる。

「おはよう!」
「・・・あ、おはよう。」「おはよ〜」「おっはよう」
私が挨拶すると一斉に挨拶が返ってきたけど、みんな元気がない。

そして、
「おはよ、ねぇ・・・今朝のニュース見た?」
予想通り理奈が話題をふってきた。
「見たよ、長谷川さんでしょ?」
「なんかさ、よく顔を合わせてた人があんな目に遭うなんて・・・。」
「うん・・・せめて長谷川さんが無事でいてくれればね。」
理奈の顔色が冴えないのも無理はないだろう。
他に集まっていた子達も複雑な表情をしている。
そのうちの一人が口を開いた。
「やっぱり、犯人にさらわれちゃったのかな・・・?」
「こわい・・・」
みんな眉をひそめながら話し込む。
・・・教室の雰囲気は騒がしいのだけど、どこか沈んでるな。
そんな中、放送が入る。

「ただいまから臨時全校集会を開きます。生徒は全員体育館に集合してください。」

教室がざわめき立つ中、担任の先生が入ってきて体育館に向かうように指示した。
みんな訝しげな表情でめいめいが立ち上がっていく。
「じゃ、いこっか。」「うん。」
理奈を促し、教室を出て言葉を交わしながら廊下を歩いていく。
「やっぱり、長谷川さんのことかな?」
「だろうね。」
それだけじゃないと思うけれど・・・。

集会では、案の定、長谷川さんの事が触れられ、
みんなで彼女の無事を祈りましょうと言うような話しだった。
それから、井村さんの事についても、
おかしな事故なので警察も動いているが原因も不明で、
部活の時間を短縮することになったということ、
そして放課後はすぐに帰るようにということだ。

教室に戻る途中で岸部君が目にとまったので声をかけると、
振り返った顔はまさに顔面蒼白というやつだった。
「今朝、いつもの時間に来ないから、
 あき・・井村に電話したけど全然でないからおかしいとは思ったんだ。
 あの時・・・俺があいつのこと待ってれば・・・くそっ!」
「岸部君・・・。」「・・・。」
私も理奈もかける言葉がなかった。

この日はみんな落ち着かない一日だった。
誰も彼も授業は上の空という感じでざわざわしていた。
先生達も会議やら何やらで忙しいようで、部活中止の放送もチラホラとかかる。
大騒ぎだよ全く。
結局終礼も早めに終り、岸部君が即座に立ち上がって教室を出て行く。
たぶん、井村さんのところに行くんだろうな。

「理奈は部活なの?」
「う〜ん、一応ある予定だったんだけど、今日は部長が急用で休むらしいし、
 先生も今日は無しにするから早く帰れって。」
「そう、じゃ、一緒に帰ろうか。」
「うん。」
一緒の電車に乗ったものの、理奈は浮かない顔で話もあまりはずまなかった。

「それじゃ、また明日。」「うん、じゃーね。」
やがて理奈が降りる駅に着き、ホームに消えていく理奈を見送った。
私はそのまま電車に乗って病院に向かうことにする。
途中で雪姫に電話をすると、雪姫の方が先の電車に乗っているようだ。
待ち合わせ場所を決めて電話を切ると、またすぐに電話が鳴った。
「もしもし。」
「将お姉様ですか・・・?」
沈んだ鬼姫の声だ。こりゃ何かあったな。
「鬼姫か。どうしたの?」
「・・・病院に放っていた式神が何者かの干渉を受けて追い返されてきちゃったんです・・・。」
「ええっ!?わかった、なるべく急ぐからアンタももういっちょお願い!」
「はい、既に準備は出来ています・・・
 式神を追い返すことができる者がいるということですので、
 お姉様も気を付けて下さい・・・。」
「わかってる。うん、それじゃお願いね。」
おもしろそうなことになってきたじゃないのさ。



〜赤口総合病院・井村亜希子〜



気が付くと、私は体中包帯に巻かれてベットに横たわっていた。
「亜希子!お母さんが、わかる!?」
「うん・・・わかるよ・・・。」
目を覚ました私を見てお母さんが涙を流していた。
お母さんがその後あわてて看護婦さんを呼ぶ。
看護婦さんやお医者さんがあわただしくやってきて体調などを尋ねられた。
しかし、何があったかまでをしゃべるわけにもいかないので、
記憶がとぎれていると言っておいた。
それも落ち着くと、ほっと一息ついて、自分が生きているということに安堵する。
お母さんはお医者さんと一緒に部屋を出て行った。

病院にはあきれるほどの霊がうごめいていたので、
数体を手なづけて周囲の様子を探らせると、
誰かの使い魔がこちらをうかがっていることがわかった。
ずいぶんと和風な感じの小鬼で長谷川さんのものではない事にひとまず安心する。
わざわざ手出しして騒ぎを起こすこともないし、ほおって置こうと思っていたのだが、
魑魅魍魎をとおして病院の入り口に他のアイテム所持者二人がやって来る見えたので、
少々強めの霊に働きかけて、ひとまず誰のものか分からない小鬼を撤退させた。

「っ!いたたっ・・・。」
あちこちが痛んだけれど、なんとか自分で身を起こす事が出来たので、
彼女たちを出迎えることにする。
あの子達にも長谷川さんのことを伝えなければ・・・。
廊下に出ると、雄馬君がこちらに向かっているのもわかり、胸が熱くなる。
けれど、矢部さんと御劔さんもこちらに近づいているようだ。
とにかく、早く二人に会わないと。
霊を使って二人に屋上に来るように伝えておく。
エレベーターを使って屋上に上がって二人が来るのを待つ。
幸いなことに誰もいない。
だんだんと立っている事さえつらくなってきたのでベンチに腰を下ろす。
数カ所包帯からわずかだけど血がにじんできた。
ちょっと傷が開いちゃったかな・・・。

やがて二人が姿を現してこちらにやってきた。
片方が私を見て顔をしかめた。
「ヒドイ怪我ね、具合はどう?」
「なんとか、生きているみたいです。」
「そう・・・直美もだけど・・・やっぱりあの子達にやられたの?」
「!・・・長谷川さんも、ってどういうことですか!?」
「あぁ、テレビ見てないか。直美の家族が全員・・・
 その、殺されて、本人は行方不明だって・・・。」
そんなことって!
「そんなっ。私は・・・長谷川さんにやられたんですよ?!」
「「!?」」
二人とも驚きを隠せないようだ。
無理矢理言葉を押し出すようにして片方が口を開いた。
「ウソでしょ?・・・な、なんで直美があなたを!!」
そこで二人に昨日の出来事をかいつまんで話した。
「あいつ、何考えてるのよっ!!」
「・・・・・。」
片方は長谷川さんへの怒りをあらわにしているが、もう片方は依然として無表情だ。
そして今まで黙っていた片方が口を開く。
「あの人・・・穏和な笑顔の下にはあらゆるものに対する底知れない憎悪が渦巻いてた・・・。
 誰の敵になっても不思議じゃありません。」
「「・・・・。」」
その場が沈黙に支配される。

「それはともかく・・・私、長谷川さんと闘ってみたかぎり、
あの人が普通の人間にどうこうされることってあり得ないと思います・・・。
私たちだってそうでしょう?」
どう考えたって殺人犯だろうがなんだろうが、
ただの人間に長谷川さんを殺したりさらったりできるなんて考えにくい。
それを聞いて一人が頷く。
「それは確かにね。だとするとやっぱりあの子達が?」
「それしか考えられないんですが・・・
 昨日、倒れている私を見つけたのがあの人達と数学の楯先生なんだそうです・・・。
 それに、昨日のことで私は彼女たちにマークされてしまったみたいですが、
 私たちのことはまだ知られていないはずです。」
今度は無口なもう一人が頷いて答えた。
「そうですね・・・ばれているならとっくに何らかの干渉があるはずだし・・・
 仮に長谷川さんの事だけがわかったとしても、
 私があの人達なら、しばらく泳がせて他の人間も見つけ出そうと考えます・・・。」
「だったら、直美はいったいどうしたのよ。」
「「・・・・・・。」」
そう問われても、私達にそんなことわかるはずがない。

「とにかく、注意してください・・・あの二人もこの病院に向かっていますから。」
「ふふっ、他にも向かってる人がいるんじゃないの?」
「なっ!・・・あのっ・・・とにかく気を付けてくださいっ!」
思わず赤面してしまった。まったく何を言い出すんだろう。
もう一人の方はきょとんとしているが。

「はいはい、お邪魔はしませんって、もう帰りますから・・・・」
そこまでニヤニヤしながら言っていたのを、
そこでいったん言葉を句切って真顔に戻り続けた
「・・・じゃ、お大事に、あなたも気を付けて。」
「はい、ありがとうございます。」
もう一人も私の方に会釈してから二人とも去っていく。
病室に戻るとお母さんと雄馬君が待っていた。
今日はゆっくり休もう・・・。


To be continued...

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