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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第四十二話


〜赤口総合病院・長岡 澪〜



井村さんとの話を終えて、屋上から降りてくると、隣にいたもう一人が話しかけてくる。
「とりあえず、井村さんは無事・・・後は直美ね。いったいどうなってんだか・・・。」
「・・・。」
それは私にだってわからない。
ただ、長谷川さんはまだどこかに潜んでいる・・・それも自分の意志で。
そんな、確信にも似た予感が私にはあった。

「これからどうするの?私は帰るけど。」
「私は・・・ちょっとここに用事があるので。」
「え?どこか悪いの?」
「いえ・・・私、この間までここに入院していたので・・・。
 先週受けた検査の結果が出る頃ですので担当医の先生に会ってきます。」
「あっ、なるほど・・・。わかった、それじゃ、あなたも気を付けてね。」
「ありがとうございます・・・、それでは。」

彼女と別れてから、私は受付をすませて待つことにした。
私が入院していた心臓外科のフロアに向かうことにする。
窓口の上にある電光掲示板を見たが、私の番号まではもう少し待たされそうだ。
しばらく座って外を眺め、人の流れをぼーっと見ていると、ゲートから、
うちの学校の制服を着た女生徒が入ってくるのが見えた。
「・・・矢部さん?」
その姿を見て私は小さくつぶやいた。
その女生徒は間違いなく矢部雪乃さんだったからだ。
井村さんの言うとおり、彼女たちもこの病院に向かっていたんだ・・・。
彼女は正面玄関に消えていった。
帰る時はなるべく出会わないように気を付けなければ。

ふと振り返って電光掲示板に目をやると、そろそろ私の番だった。
やがて私の番号が表示され、私の名前が呼ばれた。
看護婦さんにうながされて診察室のドアをくぐると、
子供の頃から長年お世話になっている先生がカルテに何か書き込んでいた。
私がこの先生に初めて会ったのは幼稚園の頃だ。
あの頃、30そこそこだった先生も今は40代半ば。
髪の毛に灰色っぽいモノが混じってきている。
「こんにちは。」
私が頭を下げて挨拶すると先生は顔を上げてこっちを向き微笑んだ。
「やあ、澪ちゃん。さ、こちらへどうぞ。」
私は、どんなに具合が悪い時でも何故かほっとできる先生の微笑みが好きだ。
「最近の調子はどう?」
「ええ。とても良いです。」
「そうか。検査の結果だけどね、まったく驚かされた。
 もう健康そのものだ、私なんかよりもずっと良いぐらいだよ。はっはっはっはっ。」
「あははっ。本当ですか?」
先生は大きく頷いて続けた。
「はっきり言って、半年前の状態からは考えられない。
 今だから言えるけど、あの頃は明日をも知れないってぐらいの澪ちゃんの容態に
 冷や冷やさせられっぱなしだったよ。
 この回復は医学的に説明がつかないぐらいだ。」

半年前・・・私が嵐の魔剣を手にする直前の頃。
比喩でもなんでもなく、私は明日死んでもおかしくないほどの状態だったのだ。
自分でもはっきりとわかるほどに体は衰え、身を起こすことさえ困難であり、
いつも死の影に怯えていた。
「・・・・先生にはお世話になりました。」
「いやいや、キミは本当にがんばった。
 幼稚園の頃から入退院の繰り返しで術後の経過も決して良くはなかった。
 それがこうして元気に学校に通えるようになって・・・。
 医者になってから今までこれほどうれしいことはない・・・」

先生はそこでほんのわずかに声を詰まらせたが、
一つ咳払いをしてから何もなかったように続けて言う。
「澪ちゃん。きみはもう大丈夫だ。病院に通う必要はないんだよ。」
「それは・・・本当に?」
私の問いに先生は再び頷いた。
わかってはいたが物心ついた時から今まで病院に通い続けていたのだ、
とても奇妙な感じがした。
「いやはや、本当によかった・・・。」
どこか寂しげだが満足そうに先生はつぶやいていた。
「さて・・・早く帰ってご両親も喜ばせてあげなさい。」
「はい・・・今までありがとうございました。」
「うむ、それじゃあ元気で。またここで会うのはやめてくれよ・・・
 もう無いと思うがね。はっはっはっ。」
「あはっ・・・それじゃ、失礼します。」
顔見知りの看護婦さん達からも祝福されつつ私は、診察室を後にした。

先生や看護婦さん達はとても喜んでくれた。
けれど、あの笑顔を思い出すと胸が痛む。
・・・私の命は人の命を糧に燃えるロウソクのようなもの、
誰かの命を食い物にして私は生き続ける道を選んだ。
この選択は正しかったのか間違っていたのかはわからない・・・
しかし、その答えを知るには生き続けるしかないのだろう。



To be continued...

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