戻るTOPへ

 

著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第四十三話


〜赤口総合病院・将姫〜



最寄り駅から五分ほど歩いたところにその病院はあった。
昨晩来た時は夜だったし、救急車から直接院内に入ったのでよくわからなかったけど、
大きくて綺麗な病院だ。
よく手入れされたこぎれいな庭では車椅子に乗った人や
パジャマの上に何か羽織ったような格好の人たちがベンチに座ったりしている。
入り口付近はガラス張りで中がよく見える。
雪姫には入り口に入ったらすぐのところで待つように言っておいたんだけど・・・お、いたいた。
あれ?誰かと話してる・・・うちの制服を着てるな、誰だろう?
とにかくわたしは駆け足で病院の中に入っていった。

入り口から入ってすぐ脇にいた雪姫と女の子はすぐに私に気が付いたみたいだ。
「ユキ、お待たせ。その子は?」
「・・・長岡 澪さんよ。私たちと同じ二年生でG組ですって。」
紹介されたその子は私の方を向いて小さな声で挨拶してくる。
「はじめまして。長岡です・・・」
「おぉ、理系の特進クラス!あったまいいんだ!
 はじめまして、わたしは・・・御劔翔子
 聞いてるかも知れないけど雪乃とは従姉妹同士だよ。よろしくね。」
「・・・よろしくおねがいします。」
長岡さんはちょっと照れたみたいに、はにかみながら答えた。
内気な子みたいだ、ちょっと鬼姫に似てるかな?
「あの、それじゃ、わたし、そろそろ失礼します。」
そういって彼女は頭を下げる。
「うん、またねー。」「・・・さようなら。」
私たちもそれに答えて、手を振って彼女を見送った。

「それにしても・・・アンタに、まさかクラスすら違う友達までいたなんてねー。」
「・・・姉さんは、由美子を覚えてる?あの校舎に閉じこめられた時に会ったと思うんだけど。
 あの子の友達なの。ここにずっと入院してて、今年の初めごろに退院したみたい。
 今日は検査結果を聞きに来たそうよ。すっかり良くなったって言ってた。」
由美子・・・あぁ、あの子か。
「おぉ、それはよかった。由美子ちゃんも喜ぶね。」
「・・・ええ。ところで、昨日の・・・井村亜希子の病室は?」
おっと、そうだった、本題を忘れて話し込んでちゃいけない。
「えっと、こっちこっち。」
雪姫を連れて井村さんの病室に向かうと、途中で鬼姫の式神に出会う。
あの子、再召喚してくれたみたいだ。
「おふたりはん、今はあきまへん。」
普通の人には見えない状態だからって廊下の真ん中で堂々と声をかけてこなくても。
とにかく院内で、はたから見えないものと話してたら精神科に担ぎ込まれかねないので
式神に目で合図して人気のないところに移動する事にした。
非常階段のあたりは人通りが少ないみたいなので、
隅っこで雪姫と二人で話す振りをしながら式神と話すことにする。
「で、今はダメって、なんで?」
「そらあんた、彼氏が来てはりますよって。」
あー、岸部君か、仲の良いことで。
「いいよ、別に直接病室に乗り込むつもりじゃないし。」
すると式神がニヤニヤしながら
「将姫はん、出歯亀は感心できまへんなー。」
などと言ってくる。

「アンタに言われたくないわっ!見張りに来たんだからしょうがないでしょう、
 くだらないこと言ってないでアンタこそさっさと出歯亀に行って来なさい。
 今度は追い返されないように気を付けなさいよ!」
「お〜こわっ!ほな、いってきますわ。」
やれやれ・・・アイツは要再教育だね、鬼姫によく言っとかないと。
「じゃ、私は病室の近くではっておくから、雪姫は・・・そうだね、入り口のあたりで。
 緊急の時は・・・そうだなぁ、ホントはいけないんだろうけど携帯をマナーにしとくからかけて。
 どうせ、面会時間までしかいられないだろうけどね。それ以外の時はあの鬼にまかせよう。」
「・・・わかったわ。それじゃ。」
雪姫は再び正面玄関に向かっていった。

私は井村さんの病室の人の出入りが見える場所でさりげなく立っておくことにする。
まだ、お見舞いで来ている人は結構いるのでさほど目立たないだろう。
しばらく待っていると、岸部君が部屋から出てきた。
おっとヤバイ、見つからないようにしないと。
さっと柱の陰に身を隠してやりすごすと、今度は40代ぐらいの女の人が入っていった。
たぶんお母さんだろうね、気を利かせて二人にして上げたんだろう。
結局その後は面会時間が終わるまで誰も来なかった。
くそっ、今日の収穫はゼロか・・・。
入り口で雪姫と合流して帰路についた。
井村さんはあと三週間ぐらい入院が必要って言ってたから、
その間に何か手がかりをつかまなくっちゃ。



〜赤口総合病院・井村亜希子〜



面会時間が終わって、お母さんも家に帰った。
何事もなく消灯時間になり、目を閉じて眠ろうと思っていたその時。
 「井村さん。」
小声でささやくように私の名前を呼ばれたので目を開けると、
暗くてよく分からなかったけれど、どうも看護婦さんのようだ。
検温だろうか?
「なんですか?」
私が尋ねると、看護婦さんは申し訳なさそうな顔で
「すいません、他の患者さんもいらっしゃいますし、ちょっと病室の外へ・・・」
「はぁ・・・?」
一体なんだろう。とにかく音を立てないように静かにベットから身を起こして病室の外にでた。
廊下の明かりは落としてあって、人気もない。

「それで、なんですか?」
「・・・相当、手酷くやられたみたいね・・・
 まさかあの子、長谷川直美があそこまで過激な手段にでるとはね。」
看護婦さんは突然雰囲気が変わり、そう言ってニヤリと笑った。
「!?」
「ほら、アナタに霊縛輪をあげた・・・私よ。」
初めて私の前に現われた時は、中学生ぐらいの女の子だった。
今更とはいえ本当に、この人は一体何者なのだろう・・・。
おそらくはこの人もまたアイテムの持ち主なのだろうけれど。
「そ、それで・・・何の用でしょう?」
「まあ、アフターケアってヤツ?あげた手前、その後どうなってるかも気になるじゃない。
 かなり酷い目にあったけど・・・あなた、まだ闘える?」
そう言われて私は自分の立場を思い知らされる。
長谷川さんの攻撃、死ぬほど痛かった・・・本当に死ぬかと思った。
あの人・・・本気で私を殺すつもりだったんだ。
思い出すと震えが止まらなくなった。

「あらあら、震えちゃって・・・でもね、それを持っている限り、もうアナタは逃げられない。
 あなた達を探ってる連中も、それを取り返すのが仕事だからね。
 長谷川直美だって生きている。あの子はまだやる気満々でしょうね。」
「わ、わたし・・・わたし・・・。」
声まで震えて二の句が継げない。
怖い、怖いよ・・・。
そんな私の様子を見て、彼女は溜息をつく。
「ふぅ、すっかり怯えちゃったわね。ま、無理もないか。
 このままなるようになってもらってもかまわないんだけど、
 ちょっとアフターケアさせてもらおうかしらね。
 五人目が決まったってのは言ったわね?あの子とはもう会った?」
「・・・いえ。」
そのことは聞いていたけど、本人のことはまだ何も知らない。
「ったくしょうがないなぁ。他の四人に挨拶しとけって言ったんだけど。
 ま、とりあえずね、この子が才能があったのか、
 アイテムと相性がよかったのかわかんないけど、
 今のところ、あなた達五人の中ではダントツね。
 こないだ、アイテムと正式契約して、姫になったわ。」
「なっ・・・。」
そんなにあっさりなれるものなの?

「ふふ、驚いてるわね。正直、私もビックリなのよ。
 ま、その子、"琴線の"音姫になったわけだけど。
 とりあえず長谷川直美の方はその子に接触させるつもりだから、
 しばらくアナタの方に襲撃はこないでしょう。
 その間に立ち直れるかどうかは・・・あなた次第だけどね。
 そういうわけだから、今はゆっくり傷を治しなさい・・・心身共にね。
 それじゃ・・・健闘を祈るわ。」
そう言って彼女は去っていく。
私は呆然と立ちつくしていた。
私は・・・私はどうすれば・・・。
混乱するばっかりで、うまくものが考えられない。
なんとかしないと・・・でもなんとかって?
堂々巡りに陥っていた。
今日は・・・もう休んだ方が良いだろう。


To be continued...

戻るTOPへ

inserted by FC2 system