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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第四十四話



〜将姫の部屋・将姫〜



病院から帰ってきてから夕食を食べた後、部屋で宿題をしていると、ドアがノックされた。
「だーれ?開いてるよ?」
少し慌てた様子でドアを開けて入ってきたのは鬼姫だった。
「式神から報告が入りましたっ、
 消灯後に井村亜希子さんを病室から呼び出して話していた
 不審な看護婦さんがいたそうです。」
「ホントに!?それで?」
私は思わず立ち上がって続きを促した。
「それが・・・魑魅魍魎の干渉を受けてほとんど聞き取れなかったそうですけれど、
 確かに『霊縛輪』という単語が会話に出たと。
 それから・・・長谷川直美っていう人の名前が出たそうです。」
「長谷川さん!?・・・どういうこと?あの人もこの件に巻き込まれてたの・・・?」
「すみません。それ以上のことは分かりませんでした・・・。」
「ん、わかった。これだけでも収穫だよ、
 これで少なくとも井村さんは関わってることがわかった。ありがとう。
 雪姫にもこのことは?」
「はい、一階にいらっしゃいましたので、お伝えしました。」
「おっけー。それじゃ引き続き彼女の監視をお願いね。」
「わかりました、失礼します・・・。」
やっと手がかりをつかんだ・・・。
だけど、井村さん本人がアイテムと契約してたりしたら・・・
やりにくいなぁ・・・そうでないことを願うしかないか。
さて、宿題もしなくっちゃ。



〜井村亜希子襲撃直後・長谷川直美〜



鳥の羽に転移魔法の呪術をかけたものを用意しておいてよかった。
私の姿は見られていないだろう・・・ここは、うちのすぐ近くの裏路地だ。
緊張が解けてその場にへたり込んでしまう。
分不相応な呪術を使ったせいで体に力が入らない、少々焦ってしまっただろうか。
真珠を触媒に使って負担を減らしてなければ、死んでいたのはこっちかもしれない。
とにかく、家に帰らないと。

壁に寄りかかって、よろよろと立ち上がり、体を引きずるようにして玄関までたどり着く。
「・・・ただいま。」
靴を脱いで、転がり込むように家に上がると、奥から母親が出てきた。
「おかえり・・・直美、どうしたの?!顔が真っ青よ!」
母親が血相を変えてやってくる。娘が玄関でへたり込んでいるのだから無理もないが。

「大丈夫・・・ちょっと風邪引いたかも・・・。」
「すぐに薬もってくるから、着替えて横になりなさい!」
母親が騒ぐ声聞いて、父親と弟も出てきてしまった。
「なに、姉ちゃんどうしたの?」「どうしたんだ?」
「なんでもないよ、ちょっと具合が悪いだけ。風邪ひいたみたい。」
「なんだ、母さん騒ぎすぎだよ。」
弟が母親をたしなめ、父親はまた居間に戻っていった。
「だって、顔色が普通じゃないわよ、この子。」
「うーん、たしかに。姉ちゃん早く寝た方が良いって。」
「うん、そうするから・・・。」
弟に答えてそのまま二階にある私の部屋に向かう。
部屋に入ってそのままベッドに倒れ込んだ。
そのまますうっと眠ってしまいそうになったところに母親が入ってくる。

「あら、ダメよ、ちゃんと着替えて寝ないと。
 とりあえず、ご飯とお薬、机の上に置いておくから、ちゃんと食べなさいね。」
「うん・・・・。」
母親が出て行ってから、上半身を起こして机に目をやると、お盆があって、
その上にご飯とスープ、豚の生姜焼き、コップに入った麦茶、風邪薬がのっかっていた。
はいずるように机に向かってスープを一口含んだ。
「うえっ・・・」
体が弱りすぎて受け付けないみたいだ。
これは一休みするしかないな・・。
またよろよろとベッドにもどり、パジャマに着替えて一眠りすることにした。


目が覚めると、外はまだ暗い。枕もとを手探りして、
愛用の安物目覚まし時計を見つけて手繰り寄せると
蛍光塗料でぼんやり光る針と文字盤は三時五分を指している。
その時、私のお腹が鳴った。
お腹空いたな・・・そう思って机の上を見るとさっきのご飯は残っていたので、
すっかり冷めてしまってるだろうけど食べることにしよう。
体は歩くのに問題ない程度には回復したみたいだ。

椅子に座って食事をしながら、さっきの出来事を思い浮かべる。
私、人を殺そうと・・・だけど、あの二人は問答無用で私のアイテムを奪いにくるだろう。
あの二人に勝てなければ私が死ぬことになるんだ・・・
生きるには、あの二人以上の力を手にしなければならない・・・。
だけど・・・とっておきの魔法を使っても井村さんにすら勝てなかった。
これ以上、どうすればいいんだろう・・・もっと・・・
「もっと力が欲しい・・・。」
独り言をつぶやくと、不意に後ろから答える声があった。
「それならば我が主よ・・・もっと強大な同胞を呼び出してはいかがですかな?」
アンドラスだ。
「断りなしに女の子の部屋に入ってくるのは紳士のすることじゃないわね、アンドラス。」
そういうと、アンドラスはおどけて肩をすくめ、一礼した。
この悪魔は人を不愉快にする術に長けているので、その点は注意しなければつけこまれる。
「これはこれは失礼いたしました。
 しかしまあ、その『黒の聖書』ともいつ正式契約できるかわかりませんし、
 一番手っ取り早いのは新たな悪魔を呼び出すことではないでしょうかね?」
「あなたやバンダースナッチ以上の存在を呼び出そうと思ったら、
 守護悪魔もより強大にしなければなりませんし、
 生贄だってネコやニワトリじゃすまなくなるでしょう。」
すると悪魔は胸の悪くなるような笑いを浮かべて、答える。
「まったく仰せの通り。しかし、一度は人を手にかけようとしたあなただ。
まして、この切羽詰った状況で、今さら人間の一人や二人、殺すのはためらいますまい?」
「・・・そ、そうだけど・・・あなたより多少高等でも
 人間を殺してまで呼び出すには割が合わないわ。」
「ククククク・・・我が主よ、私に名案がございます・・・
 うまくすれば、あのお方をも守護悪魔とできるかもしれません。
 そうなれば魔王クラスの悪魔さえも使役できますよ?」
あのお方・・・?
「あのお方って・・・ルシファー!?」
私が思わず声を大きくすると、珍しく悪魔の顔色が変わり、
この悪魔が今まで見せたことのないほど真面目な顔になった。
「ふぅ、あまり軽々しくその名前を口にしないでください。
 まったく人間というのは愚かしいほどに怖いもの知らずだ・・・
 所詮は定命の者、詮なきことかもしれませんがね。」
「それで、名案っていうのは?」
私が訪ねると、悪魔はニヤリと笑い、再び嫌らしい笑顔に戻った。
この時、私は本当の意味で悪魔に魂を売ったのかもしれない。


To be continued...

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