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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第四十七話

 

〜廃ビル・長谷川直美〜



「それで、あなたは何者ですか?」
警戒を緩めずに声の主に話しかける。
「情動のハープを貰った五人目だよ。
 名前は・・・"琴線の"音姫・・・だってさ。よろしくね、センパイ!」
「姫?あなたはまさか・・・」
 この五人目が決まったのは私たちの中では一番後のはず。
 それが一番最初にアイテムと正式な契約を結んでいるなんて。
「それで・・・本来のお名前は?」
「えぇ〜?だってさ、センパイって呪いとかかける人でしょ?
 そういう人にはちょっと身元は教えられないなぁ。」
小賢しい・・・。
「賢明な判断ですね。で、なんの御用ですか?」
気を取り直して用件を聞く事にする。
もし私を殺すつもりだったならとっくに殺しているだろうから、刺客というわけではなさそうだ。

「えっとね、センパイさ・・・井村センパイだったっけ?殺そうとしたんでしょ?」
「・・・えぇ。」
「あのさぁ、アイテムをくれたあの人からの伝言なんだけど、
 そういうアグレッシブさは悪くないけど
 今は仲間割れしてる場合じゃないでしょう、っていってるんだけど。
 私もそう思うんだけどなぁ。」
「私がアイテムを手に入れて、あの二人より強くなれば問題ないでしょう。」
「まあ、そうなんだけど、
 あの人もなるべく所持者の頭数は多い方がいいと思ってるみたいなんだよね。
 それに、こう言っちゃ悪いんだけどセンパイがあの二人より強くなれる保証は無いでしょ?
 一人は私が引き受けるとして、
 残りの一人をセンパイ達四人でかかれば何とかなるんじゃない?」
「自信家ですね・・・。
 それはいいとして私は井村さんにケンカを売りました、
 今更誰も私と組もうなんて思わないんじゃないですか?
 この期に及んで私もおめおめと仲直りしに戻るつもりはありませんけどね。」
そう、もう後戻りは出来ない。
こうなれば今までいかなる魔術師も到達した事のない境地まで魔道を極めてやろう、
私はそう腹をくくっていた。
自棄になっているだけかもしれないが。

私がそう答えると音姫はため息混じりに応じた。
「はぁ・・・しかたのないセンパイ。
 それじゃ、こうしようよ、あの二人を倒すまでは
 とりあえず私を含めて他の四人には手はださないってことにしない?
 もちろんこっちも敵対しないからさぁ。これ以上はこっちも譲れないよ?」
「嫌だと言ったら?」
「センパイはさっきの瓶みたいにバラバラになるね。」
「なるほど、選択の余地はありませんか・・・。
 ですが・・・これならどうですかっ!」
私は黒の聖書を呼び出して炎を呼び出す呪文を唱えた。
すると、私を取り囲むようにぐるりと天井から床まで何本もの火柱が上がり、一瞬で消えた。
「思った通り・・・瓶が切断されたのも、 声が周囲全体から聞こえたのも
 私の周りに何本もの弦が張られていたわけですね。」

すると、今度ははっきりと頭上から声がした。
「ビックリした・・・。センパイってなかなか頭いいんだぁ。
 その通り、声のやり取りも全部その弦でやってたんだよ。
 あっ、この声は念のため上にも一本張っておいたヤツだけど。
 でもね、センパイを倒すにはその一本で十分だよ?」
そのセリフを聞き終わったとき、
私は自分の服が数カ所スッパリと切られている事に気がついた。
「!・・・そうみたいですね。」
背筋に冷たいものが流れる。
「というわけで、どう?これ以上抵抗されたら
 次は首をスッパリ落としちゃうしかないんだよねぇ、こっちとしても。」
これは明らかに分が悪かった。
これが・・・正式な契約者たる姫の力か。
しかたがないが、ここまできて死んでしまってはつまらないし、
黒の聖書がこの音姫とやらの手にわたってしまうのも癪に障る。

「わかりました・・・ここは私の負けみたいです。先ほどの条件、呑みましょう。」
するとクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「よかったー、わかってもらえて。センパイも早く正式な契約が出来るようにがんばってね。
 それじゃ、さようなら〜。」
それまで感じられていた気配が消えた。
体の力が抜けてその場にへたり込んでしまう。
「・・・これは、一刻も早く儀式を済ませるべきですな・・・
 あの方の加護が得られればあのような輩、ものの数ではありませぬ。」
アンドラスの絞り出すような声が聞こえた。
「・・・そう・・・ですね。」
私はまだ半ば放心して座り込んでいた。



〜某所・音姫〜



長谷川センパイとの話を終えて私は約束の場所にやってきた。
しばらくすると30歳ぐらいのすらりとした女性が現れる。
「まぁた姿変えたんですか?本当の姿教えて下さいよー。」
私がそういうと、女性はクスリと笑って答えた。
「この件が一段落ついたらね・・・それでどうだった?長谷川さんは。」
「少し手間取りましたけど説得できましたよぉ。
 ちょっと脅迫気味だったかもしれないけど。」
「そう、それはひとまずよかったわね。あの子、あなたからみてどう?」
「ちょっとヤバイ人ですねぇ、私はあんまり関わりたくないかな。
 怖いわけじゃないですよ?ただ関わるとめんどくさそうだなーって。」
私がそう答えると女性は器用に片方の眉だけ上げて、
ふぅんと鼻を鳴らしてからさらに質問をしてくる。
「それって具体的にはどういうこと?」
「あの人の心は不安と憎悪と頑なさの重苦しい旋律ですねぇ。
 しかもかなり不協和音が響いてます。
 普通の人間なら狂っちゃってもおかしくないぐらいだと思うなぁ。
 私、耳をふさいでしまったもの。」
私のアイテム"情動のハープ"の力の一つに、
人の心の動きを旋律として聞く、というのがある。
あの長谷川センパイの心はデタラメだ。旋律と呼べるかどうかも微妙って感じ。
「そう・・・そのまま狂ってしまうのか、憎悪を力と変えるのか・・・楽しみだわ。」
そういって女性はゾッとするような笑みを浮かべた。
この人の心の旋律だけは理解できない。
もっとも、それだからこそこの人について行けばおもしろそうだと思ったのだけど。
「ありがとう、おつかれさま。今日はもう帰っていいわよ。」
「は〜い。それじゃまたー。」
これからどんなふうになっていくのか・・・それを想像してワクワクしながら私は家路についた。


To be continued...

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