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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第五十二話

〜鶺鴒公園・長岡 澪〜

狩りに出かける途中に由美子と出会ってしまいなんとなく気まずかったが、
まさか尾行されるとは思わなかった。
嵐の魔剣と契約してから、若干感覚が鋭くなったような気がする。
そのおかげで母に何回かつけられた時もすぐに気付くことが出来た。
由美子がつけてきていることもすぐにわかった。うちの母にでも相談されたのかもしれない。
公園に入ってどこかに隠れればあきらめると思ったのだが、甘かったようだ。
しばらく茂みに潜んでいると一人の少女が遊歩道を歩いてきた。
水銀灯の青白い光に照らし出されたのは間違いなく由美子だった。
様子を伺っていると由美子は立ち止まってあたりをキョロキョロと見回し始めた。
由美子は勘がいいらしい、私は慌てて頭を引っ込めた。
しばらくすると小走りな感じのする足音が遠ざかっていった。どうやら通り過ぎてくれたようだ。
私は、もうちょっと待たないと狩りはできそうにないな、と考えつつ
ため息をついて近くの木に寄りかかった。
虫除けスプレーはしてきたけれども、耳元で蚊の音がするのにはうんざりする。
早くこの茂みから出たいものだが、人通りは少ない・・・。

空の星を見上げながら足音がするのを待っていると女の悲鳴が聞こえた。
由美子だ、間違いない。私は由美子が歩いていった方へ駆けだしていた。
遊歩道を走っているとすぐに公園の中央へ向かう小道が見えてきた。
虫の声が消えている。この辺りで何かがあったにちがいない。
落ち着いて目を閉じ、感覚を研ぎ澄ますと、人の気配がした。
小道の方の茂みだろうか?気配を殺しながら小道に近づくと人影が見えた。
あちらは私にまだ気付いていないようだ。
木の陰に隠れながら慎重に距離を詰めると、
その人影は人間抱きかかえるようにしてを茂みの奥に消えようとしている。
状況から考えるに抱きかかえられているのは由美子だろう。一刻も早く助けなければならない。
あの人影には見覚えがある気がする。じりじりと人影に近づくと、私は確信した。
私が以前出会った通り魔だ。男はこちらに背中を向けているが、間違いない。
まさかこのような形で再会するとは思いもよらなかった。

通り魔の男はまだ私に気付かない。
男は気を失っている由美子を地面に横たえて
ナイフを逆手に持ち替えると由美子に振り下ろそうとする。
私は咄嗟に嵐の魔剣を呼び出して駆け寄った。
さすがに男がこちらを振り返る。
木々の隙間から差し込んでくる水銀灯の明かりに照らされた男の顔は驚愕の表情を浮かべていた。
何らかのリアクションをとろうとしたのだろうが、もう遅い。
その時男の背中には深々と嵐の魔剣が突き刺さっていたのだから。
剣を引き抜くと男はうめき声を上げて血を吐きながら由美子に覆い被さるように倒れ込んだ。
由美子が目を覚ますのではないかと思い、一瞬ひやりとしたが、由美子はぴくりとも動かなかった。
「・・・ごめんなさいね、私の方から賭なんて持ち出したのにこんなことになってしまって。
 でも・・・由美子を殺させるわけにはいかない・・・。」

そうつぶやいた直後、私は自分の迂闊さを悔いることになる。
何故もっと早くもう一つの気配に気がつかなかったのか、と。
私は慌てて剣を消した。



〜鶺鴒公園・雪姫〜

由美子と別れて、周囲の気配に細心の注意を払いながら遊歩道を歩いていった。
時々犬の散歩をする人や自転車に乗った人とすれ違うが、特に不穏な気配はない。
けれどもなんとなく重苦しい、いやな雰囲気がこの公園には漂っていた。
私の気のせいであればよいのだけれど。
そもそも、澪はこんな処に何をしに来たというのだろう。
こんな公園ではやはり逢い引きぐらいしか思いつかないが。
そんなことを考えつつ歩き続けたが特に何も起こらないし、澪に出会うこともなかった。
このまま歩き続ければまもなく由美子が向こうから現れるだろうという時。

「!・・・・・」

かすかではあるが、確かに悲鳴が聞こえた。由美子?それとも澪?
私は遊歩道を走り出した。
しばらく駆けていると、遊歩道の遙か先に一つの人影が道の脇に消えてゆくのが見えた。
奇妙なことに何かに気を配りながらゆっくりと歩いていたような感じだった。
慌ててその辺りまで走ってゆくと小道が見えた。
先ほどの人影はこの道に入っていったのだろう。
かすかにだが、複数の気配がする。そのうち一つは明らかに気配を殺そうとしている雰囲気だ。
私は気配を遮断して、警戒しながら小道に入っていった。

小道を進むと植え込みの向こうの木々のあいだに水銀灯の灯りが作り出した影が動くのが見えた。
ゆっくりとそちらに近づいていった私が見たものはなかなかに壮絶な風景だった。
地面に仰向けに横たえられた少女、
そしてその上に背中から血を流して覆い被さるように倒れている男。
そしてその傍らにはもう一人の少女が立っていた。
暗くてはっきりとは見えないが、その少女、長岡 澪は
すでに私の方を向いていてやや驚いたような表情をしているようだ。
「矢部さん・・・。」
「・・・長岡さん・・・?いったい何があったの?」
私はそのように澪に問いつつも警戒を解かずに近づいていった。
男にあのような傷を負わせる物を澪は持っていない。
しかし、私が頭の中で警報がなっているような気分がしていた。
経験から言って、こういうときに油断をするとろくな事がない。
「・・・そこに倒れているのは由美子?大丈夫なの?」
「わかりません・・・。私、今さっき悲鳴を聞いて来たばっかりで。」

私が由美子に視線を移した瞬間。
澪の手には何かが握られており、黒光りする刃がぞっとするほどの正確さで私の喉に迫ってきた。
「!!!」
視線をわずかに移したのは誘いのつもりだったのだが、
その一撃は私の予測より遙かに鋭かった。
首筋に鋭い痛みが走る。幸い皮一枚切られただけですんだようだ。
しかし、澪は手をゆるめずに次々と突きを放ってくる。
間違いない、澪の手に握られているのは嵐の魔剣。
闇姫様の元より持ち出されたアイテムの一つだ。
澪はたいした身のこなしで間合いを詰めてくる。
さっきの一撃といい、昨日今日剣を握った者の動きではない。
「くっ・・・・あなたがそうだったの、長岡澪・・・!」
「ごめんなさい、でも私も殺されたくはないの。」
澪はそう応えて鋭い突きを放ち続けた。
魔剣の能力か澪自身の才能かは知らないが、
私にとってはなんとかかわすのが精一杯の動きだった。
どうやら澪は私のアイテムを知っているようだ、
間合いを広げれば負けることがわかっているのだろう。
極寒の弓矢をなんとか呼び出して、剣をかわしつつ反撃の機会をねらう。
突きと突きの間の僅かな隙を狙って、
殺傷力は低いが、「木枯の矢」というダーツを生成すると同時に下投げ気味に放った。
澪はしまったというような顔をしたがこの距離で避けることは出来ないだろう。
事実、澪も身をよじることすら出来ないでいた。
しかし、木枯の矢は澪に届かなかったのだ。
一瞬ではあるが、澪の周りに凄まじい突風が巻き起こってダーツをはじいたのである。

「!・・・・・ちっ。」
私は思わず舌打ちした。これほど強力な能力を発揮するには仮契約では難しい。
どうやらこの少女は<姫>として覚醒しつつある。
ところが、当の本人も何が起きたかわかっていないようで、目を瞬かせていた。
その好機をのがさず、なんとか距離をとり凍結の矢を放ったが、結果は同じだった。
それに勇気づけられたのか澪は我に返り、禍々しいその剣を構えて私に向かってくる。
矢が放てるとしたらあと一発。また剣の間合いに持ち込まれてしまう。
私は貫通性に優れ、命中精度の高い「氷牙の矢」を打ち出した。

またしても澪の周りに強風が巻き起こったが、
「くうっ!」
氷牙の矢はそれを貫いて澪の肩をかすめた。
澪は肩口に傷を負って顔をしかめる。
心臓への狙いは風でそらされたが、貫くことができるようだ。

足を止めた澪の隙を逃さずに、私は必殺の矢を放つ為に精神を集中させた。
私の最強の奥義である「太陽ヲ射ル一矢」だ。
この奥義は精神を一点に集中するが故に周りに対して無防備になってしまう。
それが仇となった。
今まさに必殺の一撃を放たんとしたその時、私のすぐ側で轟音とともに閃光がはじけた。

To be continued...

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