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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第五十六話


〜古書店『愚者の書庫』・将姫〜

私たちは居間でテレビを見ながら過ごしていたが、
ふと時計を見るともう十一時半をまわっていた。
「雪姫、遅くない?」
私がそう言うと鬼姫はこくりと頷く。
「そうですね、ちょっと心配です・・・。」
「どれ、電話してみるか。」
電話をかけてみると、4回目のコールで雪姫が電話に出た。
「もしもし、アンタこんな時間まで何やってんの?」
「・・・話すと長くなるわ、もうすぐ着くから待っていて。」
「ちょ、ちょっと?あ、切れた。・・・もうすぐ着くってさ、なんかあったみたい。」
「いったいなんでしょう・・・・?」
「さあ・・・?」
まあ、現状で何か起きたっていうなら、だいたい想像はつくわけだけど。

それから5分ほどで玄関が開く音して、雪姫が帰ってきた。
「おかえりなさい・・・って、アンタ、ボロボロじゃない!」
出迎えてみてびっくりした。
「雪お姉様!い、いったいなにが・・・?」
鬼姫も眉をひそめ、口に手を当てて驚いている。
「・・・私のことは大丈夫だから、闇姫様を・・・」
そこまで言って雪姫がよろめいたので私は慌てて体を支えてやる。
「お、鬼姫ちょっと手伝って!ショウっ!闇姫様を呼んで来てっ!」
居間でイビキをかいているリスを大声で起こし、
私は鬼姫と一緒に雪姫に肩を貸して居間のソファに寝かせてやり、
おろおろしている鬼姫も取りあえず座らせて落ち着かせてやる。
「ったく、友達に呼び出されてなんでこんなズタボロになって戻ってくるのよアンタ!
 ・・・まさか、由美子ちゃんが・・・」
アイテムの所持者だったの?と訊こうとしたわけだけど、それをさえぎって雪姫が答える。
「・・・違うわ、由美子じゃない・・・」
「じゃ、いったい誰が・・・」
そこに闇姫様が入ってきた。
それと同時に雪姫が身を起こそうとしたけれども、闇姫様がそれを制止する。
「そのままでいいわ・・・雪姫、具合は?」
「・・・明日にはいつも通り動けると思います。」
「そう・・・。あなたがそこまでやられるなんて、いったいどうしたのです?」
雪姫が何があったのかをかいつまんで説明する。
その話の中に、思っても見なかった名前が飛び出したので驚いた。
「長谷川さんっ!?あの人が・・・?」
「・・・ええ。姉さんとは会ったことがあると言っていたけど本当だったのね。
彼女、黒の聖書と契約して"凶音の"忌姫と名乗っていたわ。」
鬼姫が言ってた、井村さんと怪しいの看護婦との会話の中で
長谷川さんの名前が出てきたのはそう言うことだったのか。
さらに雪姫は長岡さんのこと、そして長岡さんが長谷川さんに殺されたことなどを報告した。
「・・・闇姫様、申し訳ございません。」
闇姫様は雪姫の謝罪の言葉に優しく微笑んで頷いた。
「あなたは全力を尽くしたわ、ご苦労でした。
 ・・・話はだいたいわかったわ。
 二人とも、雪姫の手当をしてあげて。明日からに備えてゆっくり休んでちょうだい。」
「・・・もったいないお言葉ありがとうございます。」
そう答えつつも悔しそうにしている雪姫。
私と鬼姫は闇姫様の言うとおり、雪姫の傷の手当てを始めた。
事態は急激に進展しているようだった・・・。


〜『愚者の書庫』地下・闇姫〜

雪姫の報告を聞いてから私は地下の自室に戻った。
その存在はなんとなく感じ取ってはいたが、
エンプレスの意志によらない姫、イレギュラー<異姫>まで誕生してしまっていた。
そして、おそらく雪姫が出会ったという忌姫の他にもまだいるだろうと思われる。
存在を確認してしまった以上は、他のエンプレス達にも報告しておかなければならない。
私は、自室の奥にある扉を開いた。
その中は十畳ほどの部屋で、一つの円卓に八つの椅子がおかれており、
私の席以外の七つには水晶球が置かれていた。
それぞれの水晶球には、私の席から時計回りに

炎姫、嵐姫、祭姫、唯姫、光姫、聡姫、天姫

と、刻まれている。

私は自分の席に着き、形式に則って会議の招集を宣言する。
「"普遍にして純然たる虚構"こと"虚空の"闇姫、女帝会議を招集する。」
"普遍にして純然たる虚構"というのは、私の真の名前であり、
これはエンプレスだけが持ち、エンプレス同士しか知らないものだ。
"虚空の"闇姫というのは慣用名とでも言おうか。

私の招集に応じて、他の水晶球が輝き出す。
最初に反応があったのは嵐姫と刻まれた水晶球だ。
「"戯れにことごとくかき乱す旋風"こと"悠久の"嵐姫、招集に応じるものである・・・
 久しぶりだなぁ、お嬢。元気だったか?」
姿は見えなくとも、この明るい声だけで嵐姫の屈託のない笑顔が目に浮かぶ。
このエンプレスは、他のエンプレス全員にあだ名を付けて呼んでおり、私は『お嬢』らしい。
最初は皆、嫌がっていたが、何時しかあきらめて、黙認している。
「久しぶりですね、嵐姫さん。突然の招集に応じていただき感謝致します。」
そう言っていると祭姫と刻まれた水晶球に光が宿った。
「"一切を養い育む大地"こと"豊穣の"祭姫、招集に応じるものである
 ・・・会議とはまた久しぶりですね。」
「よう!巫女さんかぁ!どうだい調子は?」
「・・・すこぶるいいですよ、嵐姫さん。」
少し間があいてから嵐姫に答える祭姫。まだ、あだ名に抵抗があるらしい。

続いて反応があったのは、私の隣にある炎姫と刻まれた水晶球だ。
「"一つ残らず呑み尽くす奈落"こと"破滅の"炎姫、招集に応じるものである
 ・・・まったく、いったい何事だ!」
あいかわらずのきつい反応だ。
「申し訳ありません、緊急にお伝えした方がよいと思われることがありましたから。」
「はっはっ、まあまあ、そうカッカすんなよアネゴ!ま、たまにはいいじゃねぇか。」
「む・・・。」
やたらあっけらかんと、なだめに入った嵐姫に毒気をすっかり抜かれてしまったようだ。

今度は炎姫の真向かいにあたる光姫の水晶球だ。
「"万物を包み込む光明"こと"日輪の"光姫、招集に応じるものである・・・
 久しいな、闇姫よ。まだ全員はそろうておらぬか。」
「ええ、まだそろっておりません・・・お久しぶりです、光姫さん。」
口調は時代がかっているが、光姫の容姿は4,5才と言ったところである。
「ふむ、して、かように緊急に会議とは穏やかではないな、何事ぞ?」
「率直に言えばイレギュラーが確認されました。」
「なんと、そうであったか。しかし、そやつはそんなにやっかいなのか?」
「まだなんともいえませんが、今後どうなるかまだ予測しかねます、
 先立って報告しておこうと思いまして。」
そこまで言うと、今度は天姫の水晶球が輝き、天姫の鋭く冷たい質感の声が響いた。
「"分け隔てなく打ち砕く雷"こと"錬磨の"天姫、招集に応じるものである
 ・・・闇姫よ、ずいぶんと急だな。」
「えぇ、詳しくは全員そろってからでよろしいですか?」
・・・同じやりとりの繰り返しになりそうでいい加減少しうんざりしてきたので、そう答えておく。
さっきから嵐姫が他のエンプレスにやたら話しかけているので間は持つだろう。
そんなこんなで少し間があいて、今度は聡姫だ。
「"不動にして全き水鏡"こと"天啓の"聡姫、招集に応じるものである・・・遅くなって申し訳ない。」
「まだ全員そろっておりませんから、お気になさらずに。」
「おや、私が最後だと思ったのだが・・・まだ来ていないのは・・・唯姫か。珍しいな。」
確かに唯姫はいつも早めに来る方だ。
しかし、噂をすれば影、すぐに、私の真正面にある水晶球に光が点った。
「"遍く世を統べる真理"こと"至高の"唯姫、招集に応じるものである・・・
 ふふっ、闇姫さん、うちの献姫がお世話になっておりますわね。」
登場するなりなんとなく含みのある物言いの唯姫。
しかし、私と唯姫は対極を為すエンプレスであり、あまり仲はよくない。
いつものことなので、気にしないで普通に返答しておく。
「いえ、こちらこそ、ご協力感謝致します。」

これでようやく全員がそろった。
雑談に花を咲かせている一同を鎮めるべく、私は会議の開始を宣言する。
「全員そろいましたので、女帝会議を始めたいと思います。
 議長は、盟約により現在のアイテムおよび、その所有者である配下の合計が最多であるわたくし、
 "普遍にして純然たる虚構"こと"虚空の"闇姫が勤めさせていただきます。
 副議長は次いでアイテムおよび、その所有者である配下の合計が多い
 "遍く世を統べる真理"こと"至高の"唯姫、
 書記には、特に希望がなければいつも通り、
 "不動にして全き水鏡"こと"天啓の"聡姫を指名させていただきますがよろしいでしょうか。」
全員から異議無しと声が挙がり、会議は承認された。


To be continued...

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