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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第五十八話


〜『愚者の書庫』地下会議室・闇姫〜

「なるほど、わかりました。」
唯姫の返答に対して、一応頷いておく。それ以上、唯姫からのリアクションは無かった。
「まあ、その話はこの辺にしておいて、他にも気になることがあります。」
「それは、賊がどうやって人間界に渡ったのか、ということかな?」
間髪入れず、聡姫が正解を言ってしまう。
「その通り、未だ人間界への侵入経路が不明なのです。」

姫達がこちらの世界と人間界を行き来する方法は三つ。
一つ目は、私が将姫達を呼び寄せたように、エンプレスが召還儀式を行うこと。
これは、望んだ相手だけを呼び寄せることが出来、空間そのものに穴を開ける必要がないので、
想定外の者が紛れ込むこともないという利点がある反面、儀式の準備に少々手間がかかり、
また、自分がアイテムを与えた配下である姫しか呼び出すことは出来ない。

二つ目はエンプレスだけが作り出せる"ゲート"を使うこと。
これは、一度設置してしまえば、何度でも使える上、何人でも行き来することが出来る。
問題としては、一度設置したら、出入り口共に固定されてしまうこと、誰でも利用できるので、
想定外の者が出入りする可能性があることである。

三つ目は私たちが"通行証"と呼んでいる、
やはりエンプレスが作り出せるアミュレットを使うことである。
これは個々人に与えるので、必要な姫にだけ与えれば、
その姫だけが自由に行き来できるようになる。
しかし、これもまた誰でも使えるので、奪われたり、紛失したりしたら大騒ぎだ。
数は厳重に管理するべきだし、無計画に作っていいものでもない。


「ふむ・・・まず、召還は、ありえないな。
 イレギュラーは誰にも召還できぬし、現在人間界にいるのは闇姫だけだ。
 では、"通行証"という線だが・・・作った者はきちんと管理してるか?
 うちは"通行証"一つだけ、それは今のところ、私が持っている。」
天姫の質問に、皆、各々が答えたが、嵐姫が四つと、少々作りすぎな気がするけれども、
四人の姫が持っていることを確認できたということで、
他は天姫のようにせいぜい一つをエンプレス自身が保管し、
必要に応じて貸し出しているという方法をとっていて、それも皆が持っていて
行方不明になっている"通行証"は無いという結論に到り・・・そうだったのだが。
「うちはそもそも"通行証"など使っておらん・・・いや、まてよ・・・」
炎姫が何か思い出したようだった。
「何か思い当たることでもあったのですか?どんな些細なことでもいいから言ってください。」
「いやなに、皆も知っているだろうが、
 私の配下の凛姫は元々私の元にいた五人を倒し、アイテムを手に入れた・・・。
 しかし、凛姫の奴めが持っているアイテムは五つ。つまり、一人は凛姫の手を逃れたわけだが・・・」
そこでいったん言葉を切ってから、
炎姫にしては珍しく、若干(本当に若干だが)言いにくそうに続けた。
「その、現在行方不明の姫、"絶望の"霧姫だが、
 奴はもともと我が配下のリーダーでな、そやつが"通行証"を持っていたはずなのだ。」
「そういう大事なことはもっと早くに思い出さぬか!!」
光姫がつっこみをいれたが、それはみんなの気持ちを代弁したと言っても良いだろう。
「もう、前回の<戦>より前の話だ。今、思い出したのだから仕方が無いだろう!」
いわゆる逆ギレである。

「・・・それに、ヒロインたる"戦慄の"凛姫と闘ったのだ、無事で済むはずがない・・・。
 凛姫も、逃しはしたが半死半生のはずだと言っておった。
 それから前回の<戦>がはじまるまで、私自身も出向き、捜索したが見つからなかったのだ。
 この狭い世界で百年近くもエンプレスの目を逃れられるはずもない。
 のたれ死んだか、生きていたとしても、人間界に逃げ込んだのだろうよ。」
「霧姫か・・・たしかに、そんなに以前からこっちの世界をうろついていたとすれば、
 ほぼ確実に、私らのうちの誰かに存在を感知されるだろうな。」
嵐姫が炎姫の推測を聞いて頷き、
「・・・人間界に渡ったのならば、その"通行証"が使われた可能性が十分考えられるではないか。
 イレギュラーは人間界でしか誕生しないのだからのう。」
光姫が続けて結論を言う。
しかし、私は別の推測を立てていた。
「待ってください。皆さん、ゲートを作った方はどれぐらいいらっしゃいますか?」
「いや、面倒だし、必要ないからなぁ」
というのは嵐姫。
「昔、試しに作ってみましたけど、もうだいぶ前に封鎖していますよ。」
そう答えるのは祭姫。
「わらわはあれは好かぬ。」
光姫も作っていないと。
「研究はしているんだが、私の部屋と庭をつなぐ試験用しかないな。」
これはもちろん聡姫。
「一つあるが、凛姫が常にその近辺で修行しておる。使われなくなって久しい。」
と、炎姫。
「私のところも特に要らないからな、作ってはいないよ。」
これは天姫。
「わたくしも、ゲートは所有しておりません。召還の方が好みなものですから・・・さて、唯姫さんは?」
「っ・・・・。」
唯姫が何かいいかけてやめた。どうやら、私の予想は当たっていそうだ。
「おい・・・女王様・・・?」
怪訝そうに呼びかけたのは嵐姫。女王様というのはもちろんタカビー唯姫のあだ名である。
「・・・ゲートは所有しております・・・。」
少々小声で唯姫が答えたが、聞こえないふりをして私は追い打ちをかける。
「え?聞こえませんでした、もう一度お願いできますか?」
「ゲートを所有しております!」
私に言われたのが気に入らなかったのか、今度は耳が痛いほどの大声だ。
「なるほど、そう言うことか。」
聡姫がぼそっとつぶやいた。
「いえ、そのですね・・・。」
唯姫が明らかに狼狽している。
「なんじゃ、どうしたのじゃ。」
光姫はまだよくわかっていないようだ。
そこで、私がとどめを刺す。
「唯姫さんのところにも侵入した賊・・・何も取らなかったようですが、
 最大の目的はゲートだったのではありませんか?」
他のエンプレス達がざわつきだす。
「・・・ええっ、そのとおりですわっ!賊は我が配下のヒロイン、"拳聖の"龍姫を出し抜いて、
 まんまとゲートから人間界に逃走したのですっ!」
「やれやれ、そういうことだったのですか・・・って、待ってください、龍姫を出し抜いた?」
祭姫が驚きをあらわにする。
私もそれは予想外だった。まさか、星姫の他にもヒロインに対し隠身してのけたとは。
「おい・・・今回の犯人・・・本物だな。」
嵐姫が真剣な声で声を低めて言うと、ざわめきだつ会議場が静まりかえった。


To be continued...

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