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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第六十話

〜朝、赤口総合病院・井村亜希子〜

この病院にきてもうすぐ二週間、抜糸もすんで、順調に良くなったけれども、
そうなってくると入院生活というのは非常に退屈だ。
雄馬君は毎日寄ってくれるけど、彼が来るのは夕方だし、読む本もそろそろ無くなってきた。
でも、退院したらこんな風にのんびり出来ないかもしれないのだし、
そう考えれば、ゆっくり過ごすのも悪くはないかな。

アイテムのこと、長谷川さんのこと、二人の姫達のこと・・・ぼーっと考えていたら、
看護婦さんに、横から声をかけられた。
「どうしたの?ぼーっとしちゃって。」
「あ、なんでもないです・・・」
と、返事をして気が付いたが、この看護婦はあの人だ。
「ふふっ、よほど退屈のようね。彼が来るのが待ち遠しいでしょ?」
「いえ、そんな・・・ところで、なにか?」
幸い、この部屋の別の患者さんは寝ているか外に出ているみたいだけど。

「ここじゃなんだし、退屈してたんでしょ?散歩でもどう?」
「え、ええ・・・」
ベッドから降りようとするとまだ身体が痛んで顔をゆがめてしまう。
それを見て看護婦の姿をしたこの人は手を貸してくれた。
「はい、気を付けて。」
「あ、ありがとう・・・ございます。」
こうしてみるとまるで本物の看護婦みたいだ。

「それじゃ、庭にでもいきましょう。大丈夫かしら?」
「あ、はい、それぐらいなら平気です。」
エレベーターで降りて、外のちょっとした公園のようになっている庭のベンチに二人で腰を下ろすと、
おもむろにこの人は口を開いた。
「・・・長岡澪さんね、死んだわ。」
一瞬、言葉の意味するところがわからなかったのだけど、理解すると同時に、
「え、そんなっ!!」
思わず大きな声を出してしまう。
看護婦姿の人が口に人差し指を当てて「声が大きい」と注意されてしまったので、
声を小さくして言葉を続ける。
「誰に・・・?」
「長谷川直美さんよ。」
「!?・・・あの人はいったい何を考えてるんですかっ。」
そういうと、この人はため息をついて答える。
「私にもよくはわからないわね。ま、その事はこちらに任せて、今は身体を癒しなさいな。」
「・・・あの人、おかしいです・・・。」
「まあね。でも、彼女なりに勝ちを拾いに行ってるんでしょう。
 あなたも取って食われないようにがんばりなさいな。」
こともなげに言われて二の句が継げなくなってしまった。

「そ、それにしても。人一人死んだにしては何も伝わってきませんが、どういう事ですか?」
「あら?最初に説明したでしょ、忘れちゃった?
 アイテムと契約した者が死ぬと存在そのものが抹消される・・・。
 つまり、人々の記憶からも消え去る、というか初めからいなかったことに修正されちゃうのよ。
 私たちが長岡さんを覚えているのは、私たちもまた契約者だからね。」
「そうでしたね・・・。」
それじゃ、私が死んだら、両親や雄馬君も私のこと忘れてしまうんだ。
「あらあら、泣きそうな顔しちゃって。今、両親や友達のこと考えたでしょう?
 ・・・気持ちはわかるけど、負けた時のことなんか考えるのやめなさい。
 あなたも、勝つことを考えないと。
 私たちはみんな、アイテムとの相性も扱う技量も、
 もちろんアイテムの性能自体や本人の力量も違う。
 カードゲームと同じね。配られた手札はみんな違う。
 絵札すら持たない人もいれば、ジョーカーを持つ人もいる。
 だけど、配られた手札で最善をつくさなきゃね?
 ま、これはアイテムの契約者に限った事じゃないと思うけれど。
 ・・・喋りすぎたわね、そろそろ帰るわ。・・・他に何かある?」
「いえ、なにも・・・。」
「ふふっ、それじゃ、お大事に。」

そう言って手を振ると彼女は去って行った。
病室に戻りながら、あの人の言葉を頭の中で繰り返す。
勝つことを考える、か。
そんな事、真剣に考えたこと無かったかもしれない。
こんな風に入院する羽目になったのはそのせいだろうか。
だけど、長谷川さんは絶対に間違っていると思う。
彼女をなんとかしなければ、姫どころじゃない。
あの人は任せておけと言ったけれど、どうするつもりなのだろう。
自分を殺しに来た人間を許せるほど私の心は広くない。




〜麗峰学園放課後・雪姫〜

今日もようやく授業が終わった。
由美子に怪我の具合を聞かれたが、鬼姫があの後作ってくれた薬のせいか、
かなり回復していたので見た目にもダメージはほとんど無いはずだ。
そんな私の様子を見て由美子も安堵の表情を浮かべていた。
どうやら、澪の事はすっかり記憶から消去されているようだ。
部活に向かう彼女を見送ってから、私は献姫に会うために職員室へ向かう事にする。
将姫姉さんには一応声をかけたが、まったくもって予測通り、ぷいっとそっぽを向いて帰ってしまった。

ともあれ、協力することになった以上、昨日のことは伝えておかなければならない。
もっとも、彼女が仕えるエンプレスである唯姫経由で概ね情報は伝わっているだろうけれど。

職員室へ行き、用件を述べると、
すぐに献姫がやってきて、この前のように生徒指導室へと連れてこられた。
椅子に座るなり、彼女にしては珍しく、やや真剣な面持ちで真っ直ぐと私を見てくる。
「昨日は大変だったみたいね。」
「・・・ええ、一人死んだわ。その上、標的を一人逃がしてしまった。」
「聞いてるわ・・・まさか、"狩人"なんて二つ名を持つあなたが取り逃がすとはね。」
「・・・・。」
私は感情の起伏は激しくない・・・むしろ、ほとんど無きに等しいが昨日のことを思い出すと
さすがに、悔しく腹立たしい。

「あ、ごめんなさい。違うのよ、敵もよっぽどだったのね、ってこと。
 えっと、黒の聖書の契約者だったわね?」
「・・・どっちにしろあなたに腹を立てる筋合いのことではないわ。
 ・・・そう、長谷川直美・・・"凶音の"忌姫と名乗っていた。」
「行方不明になったと思ったらそんなことになってたわけね。
 やれやれ、えらく人騒がせな子だこと・・・って、ああっ!」
素っ頓狂な声を上げる献姫。この人も十分騒がしい。
「・・・なに?」
「あのね、昨日、職員会議で言ってたんだけど、
 なんでもこの辺で生徒やら先生やら片っ端からつかまえて
 長谷川直美について知ってることを教えてくれって言ってくる女の子がいるって。
 これは、何か関係あるわよね。」

「・・・警察やマスコミとも考えにくいわね。
 生徒や教師に訊いて回るというなら契約者とも違うと思うけど。」
「どうする?その子さがしてみようか?」

「・・・いいえ、そちらはあなたに任せる。そういうことは教師の方がやりやすいでしょう?
 私たちは井村亜希子の周辺をもっと探ってみる。あの尋常じゃない傷、しかも学校で・・・。
 彼女も忌姫に襲われたって十分考えられるもの。」
「たしかに。さてと・・・今のところ具体的な手がかりはその二つだものねぇ。じゃ、手分けしますか。」
「・・・ええ。それじゃ、あちらはあなたのことまで知っているかは分らないけど、気を付けて。」

献姫は、私のセリフを聞いて少しいたずらっぽく笑った。
「あら、心配してくれるの?」
「・・・違うわ、あなたがやられるようなことになったら
 確実に余所の姫達もしゃしゃり出てくる。それは避けたいもの。」
「はいはい、そう言うと思ったけどね。
 ま、それこっちも同じだし・・・
 個人的には特に天姫さんのとこの連中なんて出てきたら仲良くってわけにもね。
 アチラも気まずいってことはないだろうけどやりにくいっしょ?・・・あはは。」
・・・先の<戦>で献姫の右腕を吹き飛ばしたのは天姫配下の姫達だと聞いたが、本当だったらしい。

「・・・それに、あなたのとこだって、これ以上出てきたら将姫姉さんがまたかんしゃくを起こすわ。」
「おお、それが一番怖いわねぇ。」
ふざけたように身震いしてみせる献姫。本当に人を食った人物だ。
ともあれ、ようやく敵に迫っているという感触があった。
一刻も早く黒幕を見つけ出さなければ。

To be continued...

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