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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第六十四話

〜麗峰学園演劇部室・水田七瀬〜

放課後になって、部室にはちらほらと部員たちが集まってくる。
だいたいそろってから練習を始めるのが習慣なので、みんな雑談に花を咲かせたり、
台本を読み込んだりと思い思いに時間をつぶしている。

「・・・んで、佐伯は今日も部活に来ないつもりかね?」
「はい、そうみたいです。」
私は、目の前の園田理奈と一緒に嘆息した。
「あいつの気持ちはわかるんだけどね。でも、落ち込んでばっかりいても、
 ますます悪い方にいくだけだと思うんだよね。」
「私もそう思います。それに、佐伯もだけど、私は理沙が心配で。」
「井上もへこみっぱなし?」
「えぇ・・・あの子が佐伯の奴をいくら励まそうとしても全然駄目なんですよ。
 それで最近はもう、すっかり落ち込んじゃって。」
「はぁ、そりゃあ堪えるよな。」
自分の好きな人間が振り向いてくれないどころか、辛そうな時に何の役にも立てない。
これほど堪えることってなかなかないと思う。
直美が我が部に与えた影響は大きかった。
あのアマ、一度張り倒してやらないと気がすまない。

再び二人して溜息をついた時、ドアが開いて井上理沙がうつむいたまま入ってきた。
駄目だ、灰色のオーラが出てる。
「井上、姿勢をしゃんとしないと気分も余計滅入るよ。」
「あ、はい・・・。」
一瞬姿勢を正したが、すぐに項垂れてしまう。
「うーん、なんか今日部活でても集中できなさそうだよね。」
「そんなことないです、大丈夫ですよ。」
・・・全然大丈夫そうには見えないけどね。
「井上、まだ探せば佐伯、捕まるんじゃないかな?悪いんだけど、ちょっと探してきてくれる?」
「え、でも私・・・」
「いいのいいの、私が話をしたいだけなんだからさ。
 アンタをほっぽいてどっかいこうとしたら部長命令っつって無理矢理引っ張ってきな。」
この子は気を使いすぎて一歩引くタイプだから少し強引なこともした方がいいと思うんだよね。
姿を見せない直美のことなんか忘れさせちゃえばいいんだよ。
「は、はい、行ってきます!」
「首に縄付けてきてもいいからねー。」
井上がややずっこけそうになりながら駆けていった。
「ぶちょー?大丈夫ですかね、かえって落ち込むようなことにならないかな?」
理奈が心配そうにしている。
「うーん、そうね・・・でもやっぱほら、コミュニケートしないことには良くも悪くもならんからさ。
 停滞してるよりはいいと思う。」
「そんなものかなぁ。」
「10分しても戻ってこなかったら私が見てくるよ。というわけで、はい、そろそろ練習しよっか!」
人数も集まってきたので、練習の指示を飛ばす。


〜麗峰学園・井上理沙〜

部長に言われてついつい飛び出してきてしまったけれど少し後悔。
あの人には私の声なんか届いていない・・・。
見つけたからって何を話せばいいんだろう、思いつくことなんてみんな話してしまった。
しかし、気は進まないものの、やっぱり彼と話をしたいという思いは確かにあった。

駆け足で昇降口を出て校門をくぐると、駅の方向へ行く道の先に佐伯君の後ろ姿が見えた。
走って追いかけると、彼は駅とは反対の方向に曲がった。
あっちには寄り道するような場所もなかったように思うのだけど。
いぶかしく思いながらも必死で曲がり角まで走ると彼はまた先の角で曲がるところだった。
・・・なんだかどんどん人気のないところに進んで行くような気がする。どこへ行くつもりなのだろう。
私はだんだん追いつくことより彼がどこに行くのかを知りたくなってきた。
一定の距離を保って歩いていたのだけど、
廃工場のような建物が見えてきたあたりで彼が立ち止まって振り返った。

「ん?井上・・・なんの用?」
「あ!?あの・・・用って言うか・・・部長がお話ししたいみたいで」
「部長が?悪いけどさ、俺、もう部活やめるから。そう伝えといて。」
「ちょっと!・・・ウソだよね?」
「ホントだよ、じゃ、井上も、もう帰った方がいい。」
「待ってよ!退部するならするで、ちゃんと自分で言わなきゃ駄目だと思う!」
「・・・うるさいな、井上には関係ないだろう。もう俺に関わらないでくれよ。」
「!・・・そんな、一緒に部活やってきた仲間じゃない、ひどいよ、そんな言い方。」
涙で前が滲んできた。本当はもう泣き崩れてしまいたいほど、私はショックを受けていた。
関わるなとまで言われるなんて思ってなかった。
「鬱陶しいな、おまえ。俺、もう行くから。」
佐伯君はこのところたしかに落ち込んではいたけれど
今日は明らかに様子がおかしいように思えた。
ちょっと頼りないところはあったけど、優しくて、細やかな気遣いができる人だった。
それに何かの理由で部活を休むときだって、きちんと部長に言いに来きていた。
「ちょっと待ってよっ!!佐伯君、変だよ!佐伯君はそんなひどい人じゃなかった・・・」
感情にまかせて叫びまくりそうになった時。

「あらあら、女の子を泣かせるなんて、良くありませんね。」

聞き覚えのある女の声。
佐伯君もぎょっとしてあたりをキョロキョロと見回す。
私もあたりを見回したが、声の主が見つからない。
「ここですよ。」
廃工場の入り口から一人の女の子・・・長谷川直美が現れた。
この時の衝撃はなんと言い表したらいいのだろう、的確な表現が見つからない。
様々な感情が複雑に絡まり合って一瞬のうちに私の中を走り抜けた。
「え・・・?あれ・・・?はせがわ・・・さん?無事だったんですか?!」
「ええ、おかげさまで。」
にっこりと優しい微笑みを浮かべる彼女は間違いなく長谷川直美さんだった。
とにもかくにも、ここに彼女がいて佐伯君がこの場所に向かっていたというのは偶然じゃないだろう。
他に考えなければいけないことはいくらでもあるはずなのに、私は一つのことしか考えていなかった。
そして・・・一番気がつきたくない結論・・・
彼は、長谷川さんと会うところだったのだろうという考えに至った。

なんだか足が勝手にがくがくしてきて、へたり込みそうだった。
「あ、あはは・・・あの・・・私、ごめんなさい、
 本当に邪魔だよね・・・その、部長には言っておくから・・・それじゃ!」
このままじゃ泣き出してしまいそうだ。今の自分がひどく情けない顔をしているのだろうと思うと
彼の方も見ることができずにうつむいたまま振り返って、逃げ出すように走り出したら、
その前方に人がいることに気がついてつんのめる。
顔を上げるとそこには・・・長谷川さん?
「えっ?なんで・・・?」
今の私から見てはるか後方にいたはずの長谷川さんが私の目の前で優しく微笑んでいた。
事態が全く把握できなかった。

「申し訳ありませんが、私の姿を見たからにはそのまま帰って貰うわけにはいかないんですよ。」
いつもと変わらない優しい笑顔を浮かべているはずなのに、
その顔を見ていると何故か背筋が薄ら寒くなってくるのを感じた。
脂汗が滲んでくる。私は必死で今起こっている事態を頭の中で整理しようと努めたが、
完全に混乱に陥っていた。


To be continued...

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