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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第六十六話

〜赤口東公園・水田七瀬〜

土曜日。部活を終えてから部員と一緒にハンバーガーショップで時間を潰してから
彼らを見送り、約束の公園にやって来た。一日ごとに日が長くなる季節だ、まだまだ空は青い。
広大と言うほどではないが、ランニングコースや池もあり、
子供連れの母親達が井戸端会議をしていたり、
近くの中学生達がバスケットボールをしていたりと、にぎやかな公園で、
私も学校帰りに時々立ち寄るのだ。
うちの学校の生徒が特に名前も付けずに公園と言うとき、それは通常ここを指す。

適当にブラブラしてからベンチに腰を下ろし、時計に目をやると午後四時半。
来るのが早すぎたかもしれない。
しかたがないので鞄から読みかけの小説など取り出して読むことにした。
最近はミステリーを読むのがお気に入りだった。
夢中になって読んでいたが、空があかね色に染まってきて、
本を読むにはちょっと薄暗くなってきた。
時間はそろそろ五時半になるところだ、一時間近くも読みふけっていたらしい。
あいつはまだ来ないのか。
立ち上がり伸びをして、辺りを見回すとまったく人通りがないことに気がついた。
五時半なのだからそろそろ子供達も帰る頃だが、
この公園はちょっとした通り道にもなっていて、この時間に誰もいないというのはおかしい。
と、いうことは。
上空からバサバサと音がして一人の少女が舞い降りてきた。
その姿はさながら天使のようであった・・・黒い翼の天使がいるのならば、の話だが。

「お待たせしました。水田さん。」
そう言ってにっこり微笑む直美。背中には黒い翼が生えている。
「ええ、だいぶ待ったわね、時間を決めておくべきだったよ。
 にしても、会うたびに人間離れしていくわね、アンタって。」
「そんなことありませんよ。それで、サシで話したいってなんですか?」
「わかってるくせに。井村さんのことに長岡さんのこと、それに佐伯と井上も。
 聞かせて貰わなきゃいけないことはいくらでもあんだろうが。」
顔は笑顔を作っているし、できる限り穏やかな口調でいくつもりだったんだけど、
言葉の端々が荒っぽくなっていけない。自分で思っていたよりもだいぶ腹を立てているようだ。

「井村さんには確かに申し訳ないことをしたと思っています。
 ですが、長岡さんのほうは正当防衛ですよ。
 彼女が斬りかかってきたものですから仕方なく反撃したのです。」
全然申し訳なさそうには見えない。
「あの長岡さんがね。どうも信じがたいけど、どうせアンタが挑発したんでしょ。」
「あはは、信用無いですね。その辺は想像にお任せしますけど。
 とにかく、先に手を出してきたのはあちらですので。
 私も一応、音姫さんとか言う人と約束したんでね。」
「音姫・・・あぁ、なんかあの人が言ってたっけ、新しい子か。約束って?」
「おや、水田さんはまだ会ったことないんですか。なかなか元気な人でしたよ。
 井村さんと戦った後、その音姫さんと一悶着あって、結局、
 例の二人を始末するまであなたがたと私はお互い敵対しないでおこうって事になったんですよ。」
「ふーん、なるほどね・・・ってアンタ思いっきり破ってるわね。」
直美は何も言わずに不敵に笑いながら頷いた。
「んで、佐伯にちょっかい出したのはどーいったご事情で?」
どんな事情にしろひっぱたくつもりだけどね。
「長岡さんと戦った後、立て続けに"冷血の"雪姫ともやり合いましてね、
 かなりダメージが大きかったものですから、
傷が癒えるまで少々一人では心許ないなと思いまして。」
事情はわかった。要するに手前勝手な理由で佐伯を巻き込んだわけだ。
こりゃ到底許せんね。
しかし、その前に一つ言いたいことがあった。
「ふむ、事情はわかったけど、そこで何で佐伯なの?
 こういっちゃなんだけど、もうちょっと頼りになる奴探したほうが良くね?」
率直な感想だった。
まあ、ここで直美が佐伯に気があったから、とか答えたら許さなくもないけどね。
「あぁ・・・仰りたいことはよく分かります。こちらも人材を吟味する余裕がありませんでしたし。
 どっちにしろ私たちの闘いに巻き込まれたら、
 どんなに頼りがいのある人間でも普通の人間である限り大して彼と変わりありませんよ。
 捨て駒をあまり細かく吟味しても仕方がないでしょう?」
捨て駒ね。久しぶりにキレたかも。

「オッケー、よく分かったわ。とりあえず私の言いたいことは一つ。
 佐伯やら井上やらを巻き込むのやめてくれないかな?」
努めて穏やかな声でお願いしてみる。そろそろ限界だけどね。
「井上さんはともかく、佐伯君は私と契約してしまいましたからね。
 放っておいても私の下僕ですよ?」
「あはは、あっそう、下僕?あははは。・・・ふざけんなよ?」
直美に向かってまっすぐ歩み寄り、思いっきり平手打ちをかまそうとしたら、
こともなげに片手でガードされた。
そしてやや寂しげな微笑を浮かべて直美は口を開いた。
「七瀬。あなたも私と敵対するの?」
「あれ、昔の呼び方に戻ったね。これは敵対とかそういうのじゃないわよ。
 単にアンタが、私にとって身近な二人の人間の心を弄んで傷つけた事が許せないだけ。」
思い切りにらみつけているのだが、相変わらず笑顔で流されている。
「あなたらしいわね。あなたのそう言うところ、嫌いじゃなかった。」
「ふんっ、その過去形はどういう意味?」
「水田さん。この私と二人だけで会うというのは少々うかつすぎます。しかも、叩いてくるなんて。」
直美の顔に浮かんでいるのは
背筋に氷を突っ込まれたような気分にさせられる冷たい笑みだった。
負けじと睨み付けてやる私。
「アンタ、いい加減目を覚ましなよ。そんなことやってアンタはホントに満足なの?
 みんなを傷つけて、アンタはひとりぼっちになるだけじゃない。
 これは友人のよしみで忠告してんだからね。
 私もアンタのこと嫌いじゃないよ。
 だからさ、そんな不幸をまき散らすような真似はもうやめなさい。」
直美は真顔になって私の言葉を聞いていた。そして。
「私は一人になったけど、力を手に入れた・・・
 七瀬、私はもう引き返せないし、引き返すつもりもない。」
そこまで言って、直美は悲しむような瞳で私を見ながら微笑んだ。
「さあ・・・七瀬、今日はもう帰って。
 親兄弟すら殺した私が、今更友人の一人や二人殺すことをためらうと思いますか?」
まっすぐ直美を見つめ返してから、私は溜め息をついた。
「どうしてそこまでねじくれてしまったんだろうね。目を覚まさせてやるから!」
本来素直な奴だと思うんだけどね。
「その言葉、宣戦布告と受け取りましたよ。仕方がありませんね・・・始めましょうか。」
直美の顔はもはや友人・長谷川直美ではなく、"凶音の"忌姫だった。




To be continued...

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