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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 


第六十九話


〜赤口東公園・水田七瀬〜

直美が剣を振り上げた。もうちょっと時間を稼ぎたかったけど仕方がない。
私は香りの濃度を高めに高めたものを一気に解き放った。
いわゆる奥の手という奴だ、どんな香りも濃度が高すぎると悪臭となる。
極限まで濃度を上げるにはまだもう少し時間が欲しかったのだが、
死んでしまったら元も子もないのだ。
仮にも女の子のすることではないと思うので、これだけはやりたくなかったんだけど。

そして。
私の一か八かの命とプライドを懸けた大勝負はどうやら私の勝ちだったようだ。
直美が瞬時に顔色を変えて、うっ、と声を詰まらせたかと思うとものすごい勢いで咽せ始めた。
派手に涙と鼻水を垂らして地面に転げ回りそうな勢いだ。
これは濃度を最大にしたらどんなことになったんだろう・・・。
まあ、花も恥じらう乙女に悪臭を放つという屈辱としか言いようがない事をさせたんだから、
これぐらいの効果は当然だ。
この間に何とか木の幹の下敷きになった足を強引に引っこ抜く。
「うぐっ!いつつっ!!」
足から背筋をとおして電撃が走ったようなとんでもない痛みに
思わず声を漏らしてしまった、これは折れているな。
でも、諦めるわけにはいかない、なんとかこの場を離れなくては。
幹から折れて転がっていた枝をひっつかんで杖代わりによろよろと立ち上がって歩き始めた。
直美は何かしゃべろうとしているみたいだが、咳ばかりしてセリフになっていない。
この様子ではまだ呪文を唱えたり動いたりはできないだろう。天はまだ私を見捨てていないね。
せっせと足を引きずり杖突ながら歩いているものの全然思うように進めない。
額に汗しつつ全力で進んでいたが、背後から短い呪文のような言葉が聞こえて、
若干ではあったが突然地面が盛り上がった。
当然、私がバランスを保っていられるわけはなく、
小さく悲鳴を上げてすっころぶ羽目になった。
しかし、直美も呪文を唱えてすぐにまた咳き込み始めたので
私は再び立ち上がり、せっせと逃走を再開する。
とはいうものの、臭いの発生源は私なのだから
私が離れるほど直美の回復も早まるわけで。
がんばって遊歩道まで出てきたものの人影はない。結界ってどこまで張ってるんだアイツは。
そんなことを心の中で愚痴っていたら後ろの方から直美の声が聞こえてくる。
既に二人の距離は5m程度まで縮まっていた。
「往生際が悪いですね。」
「あれ・・・あはは・・・おかしいな、まだ臭いは残ってるはずなんだけど。」
「魔法で自分の嗅覚を麻痺させました。死ぬかと思いましたよ、スカンクじゃあるまいし。」
ああそうですか、無駄だと分かればとっとと臭いを解除させて貰いましょうかね。
「言ってくれるわね。そりゃ、生きるのびる為なら何でもするわよ。」
「やれやれ、また何かされるまえに止めを刺すとしましょう。」
今度こそやられる・・・さすがにこの時は私もそう思ったのだけど、
直美がハッとした表情を見せ、やがてそれは心底うんざりしたようなものに変わった。
「どうしたの、直美。」
「・・・結界が破られました、誰かは分かりませんがお客さんですね。」
「結界を破るって・・・それ、普通の人じゃないわよね?」
「当然でしょう。井村さんの時は姫達でしたけど、
 今回は一体誰でしょう・・・ホントに、どうしてこうなんでしょうね。」
そう言って、イライラした表情を見せる直美。
「それってあんまりボサッとしてる場合じゃないじゃないの。」
「ええ、さっさとあなたを殺して消えることにしましょう。」
やっぱそうなるのかよ。
なんとかこの場を切り抜ける手段を探しているものの、全くもって絶望的だ。
お客さんとやらも敵である可能性の方が高い。
直美から逃げ切ったとしてもそいつと鉢合わせなんてしたら最悪だ。
なんとか自分に有利な材料を探すべく頭をフル回転させていると、
私たちではない別の声が遠くからした。
おーいとかなんとか誰かに呼びかけているようだ。
「これは・・・男の声ですね?」
「そうだね。どういうこと?」
事態を飲み込めず、私たちはいぶかしげな表情で向かい合っていた。

「いずれにせよ、あなたには消えて貰いましょうか。」
再び剣を構えた直美の姿を私は見失った。
いや、見失ったと言うか私の視線が何かで遮られた。
それはあまりに唐突で現実離れしていて、うまく認識ができなかった。
何か・・・まるで光の壁のような物が私と直美の間に一瞬で現れ、
それに少し遅れて耳が痛くなるほどの轟音が響き渡った。
思わず耳を押させて身を竦めた私が我に返って見ると、
光の壁があった場所に巨大な地割れが残されていた。
「な、なによ・・・これ・・・。」
「・・・とんでもないエネルギー量ですね。」
呆気にとられすぎて、放心状態と言っても良い私たちの方へ駆け寄ってくる者が居た。
「君たち、そこまでにするんだ!」
さっき聞こえた男の声だ。それは麗峰学園の制服に身を包んだ少年だった。
顔はまあ悪くない。
そして彼は両手に剣を持っていた。
「これは、あなたの仕業ですか?」
直美が落ち着きを払った声で尋ねる。
「そう、この剣の力さ。僕はある人に頼まれて君たちの争いを止めるために来たんだ。
 あと・・・そうそう、それから劣勢の方にこっちの剣をわたすようにって。」
そう言って彼は私の方に向かって左手の剣を放り投げた。
その剣は放物線を描いて、私よりだいぶ遠くに落ちそうだった。
そりゃあそうだ、剣みたいなものそうそう遠くに投げられるはずがない。
しかし、剣は地面に落ちる直前に速度を上げてまっすぐ私の方へ飛んできたのだ。
「きゃああああっ!!」
思わず悲鳴を上げて尻餅を着いてしまった私の手にその剣はスッ収まった。
それは刀身から柄に到るまで銀色に輝いていて、
柄頭の部分には緑色の宝石があしらわれていた。
そして刀身には『CLAIMH SOLAIS COPY-03 HRATHNIR』と刻まれている。
少年が右手に持つ剣は金色に輝き高貴な印象を受けるが、
そちらを王者とするならばこの剣は聖者だろう。
まるで宗教儀式に使われる祭器のような印象を受ける。
「なんて読むのかしら。クライムソラリス?フラスニル・・・うーん、ラスニルかな?」
「クラウソラスコピー03 ハースニール、と読むらしいよ。
 さて、その剣を向こうの木に向けて構えて『切り裂け』と唱えてみて。」
「え?・・・えっと、『切り裂け』」
私がそう唱えると、柄の宝石が低く唸るような音を立てて振動し、
風が吹くような音と共に私が剣を向けていた木がズタズタに切り裂かれた。
「こ、これってアイテム?」
いや、でもアイテムは女しか触れられないってあの人が言ってたし。
新しいアイテムの力は持っている人間を倒して手に入れて、
契約しないと使えないとか言ってたような気もする。
違うのかな?でもそうでなければなんだというのだろう。
少年はちょっと困ったような顔になった。
「いや、僕もなんかキレイなお姉さんに頼まれただけで詳しいことはよくわからないんだ。」
そこまで言うと、今度は直美に向かってフッとキザに笑って言った。
「とにかく、二人の争いを止めろってさ。さあ、ここはいったん引いてくれ。
 このクラウソラスコピー01 フェイクエクスカリバーの力は見ただろう。
僕とあちらの女性の二人を同時に相手にするのは厳しいんじゃないかな?
僕もあなたのような美しい人を傷つけたくはない。」
こう言ってまたフッと笑い、キザな仕草をする。
これが似合っていないので微妙にムカツク。
直美も同じ気持ちだったようで一瞬顔を強ばらせたが、
素の顔に戻ってふうっとため息をついた。
「本当につまらない邪魔が入りましたね。なんだか戦いをする気分ではなくなりました。
 そろそろ人通りも戻るでしょうし、帰ります。
 ところであなた、この地割れは元に戻せますか?」
「いや、無理に決まってるじゃないか。」
直美はまた大きくため息をついてから、
割と長い呪文を唱えて地割れを消し切り倒した木々を元通りにしてから姿を消した。
しばらく私たちは無言で佇んでいたが、ほっとしたように少年がドサッと地面に座り込んだ。
私も吊られるように座り込む。助かった・・・。
「ふう・・・よかったー、あれ、一日に一発しか打てないらしいんだ。」
「へっ・・?」
直美にハッタリかまして帰らせたのかよ、コイツ。
さて、助かったのは良かったけれども、
コイツはいったい何者なんだ。まだ気は抜けないみたいだ。


To be continued...

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