ラグナ記

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171回目「手のひらの雫」


 お姉ちゃん、お出かけするんだね

 ほへい……起きていたの

 お姉ちゃんはどこへ行くの?
      どうして僕を置いていくの?
 ……わたし、あなたを助けにいかなくちゃ

 僕はここにいるよ、ここにいるのに!

 遠い世界にいるあなたを、きっと守ってみせる

 難しくてわからないよ…

 いつか、わかる日がくるわ

 ……

 ……大丈夫よ

 ……僕、お姉ちゃんの名前がどうしても思い出せないんだ
      ずっとずっと待っているのに、お姉ちゃんが帰ってくる日を…
 これは夢の世界なのよ、ほへい

 夢?

 目覚めれば、あるはずがない夢の記憶は
      手からこぼれ落ちる水のように失われてしまうわ
 お姉ちゃん…

 わたしの……ううん、「あたし」の名前は───

 

 ……お姉ちゃんの帰る場所は、僕が守るよ

…………………………………………………………

 使者の方、それは本当なのですか

 はい、現在ルーンミッドガッツ王国は
      北と西から挟撃を受けており、
      また南東アルベルタ港はアマツ・龍之城連合軍に占領されました
 アルベルタの敵軍がフェイヨンに攻めてくるのも、時間の問題ですね

 はわわ、お姉さま、敵が来ちゃいます〜! 

 国王陛下から、国家非常事態宣言が発令されました
      国内の全戦闘員に対し、国土防衛の命令が出ています
 国家非常事態宣言なんて………大変ッス

 私達もフェイヨンを守るため、戦う準備をしましょう

 戦う準備言うたかて
      フェイヨンには戦力らしいモンなんかあらへんがな
 応援に来てもらわなくちゃね

 それは……現在フェイヨンに割ける人員がいないため、
      すぐには援軍を出す余裕は無い 当面は自衛せよと…
 ほぅ、自衛と来たか 首都の連中もよほど余裕があらへんのやろな

 自衛が困難なら、フェイヨンを放棄せよとの事です

 ……それはなりません

 お姉さま……

 フェイヨンはわたくし達の故郷です
      ここを棄てて、行く所などありません
      なんとしても、このフェイヨンを守り抜きます!

…………………………………………………………

 大変な事が起きてるッス!

 皆さん、落ち着いて聞いてください
      今、このフェイヨンは大変な事態に陥っています
 たたたた大変なんだよっ!

 むにぃも落ち着きなさい
      隣町アルベルタがアマツ・龍之城連合軍に占領されました
      次はこのフェイヨンが狙われる事でしょう
 アルベルタは商人の町やのにぃ〜

 現在ルーンミッドガッツ王国は北と西からも攻撃を受けており
      首都にはフェイヨンに差し向ける兵力がありません
      我々は独力でフェイヨンを守らねばなりません
 北からも…… ルティエは大丈夫かな

 ルティエはほへいの故郷だもんね

 現状を図にすると、こんな感じになります

 モロクは今のところ無事みたいだな

 ……そういえば、モロクの近くにサンダルマン要塞ってのがあるでしょ
      そこにコボルド盗賊団ってのがいたわよ
 それもこの戦争となんか関係あるんかぁ〜

 王国軍は北と西とに兵力を向けていてモロクもガラ空きやからな
      盗賊団が悪さしに来てもおかしくはないな
 コモドは大丈夫なのかな…

 私が盗賊団なら、モロク狙いだな

 コボルド盗賊団がモロクを襲うとすると、こうなるね

 これは心配ッス カプラ喫茶に戻るッス

 そうだな モロクへ戻るか

 お兄ちゃん、まい達はどうすればいいのー?

 うーん…… ルティエが心配だなぁ

 ほへい殿、貴公には予備役中尉として召集命令が出ています
      アルデバランへの増援部隊に配属されますので
      ただちに王城へ参集してください
 予備役中尉? 僕、いつの間にそんなのになってたのかな?

 前に騎士のやつが気まぐれで階級をつけてやったとか言うとったぞ

 そうですか お師さまは僕には何も教えてくれないんだから……
      でもアルデバランなら故郷のルティエにも近いし、行きます
 プリーストまい、貴女にも大聖堂から召集命令が出ていますよ

 うん わたしもお兄ちゃんと一緒に行くよー

 あたしも行くわよ! ほへい、早く出発しましょ!

 おうめちゃん・・・ 君は、残って欲しい

 何であたしだけ残らなきゃいけないのよ!
      あたしはほへいのパーティメンバーでしょ!?
 これは今まで旅行とは違うんだ
      まだ一次職のおうめちゃんを危ない目には遭わせられないよ
 あたしが足手まといだって言うの!?
      ちゃんと弓や剣の修行もしてるし
      まいなんか、あたしより子供じゃない!?
 まい、今のレベルはいくつや?

 えっと、89だよ

 はちじゅうきゅう・・・!?

 お前とまいとでは格が全然違うんや
      ほへいの言う事もわかったれ
 デビ姉も何か言ってよ、あたし行ってもいいでしょ

 腕は悪くないが今は無理だな せめて二次職でないと

 ほへいはずっと一緒だって言ったもん!
      ねぇほへい、連れて行ってくれるでしょ?
 おうめちゃん、なんと言われても一緒には行けない

 あたしたち仲間よね ずっと一緒よね?

 おうめちゃん……

 「そうだよ 当たり前じゃないか」って言ってよ…(ぽろぽろ

 ……

 おうめさん、ほへいさんを困らせないで

 だって、そひぃ様……

 すみません、後をお願いします
      まいちゃん、首都へのワープポータルを
 う、うん… ワープポータル!(びゅわ〜ん

 行かないで、ほへい! 行っちゃ駄目!

 ごめん…(退場

 お兄ちゃん、待って〜(退場

 そんな……ほへいのバカ……
      あたしまだ、何にも返してない…
      助けられてばっかりで… 守られてばっかりで…
 おうめちゃん……

 それなのに、あたしを置いて行っちゃうなんて……

 おうめちゃん 気持ちはわかるけどなぁ
      しっかりせなあかんで さぁ、涙を拭きやぁ
 ……(ごしごし)
      あたし、ほへいを追いかける!
      捕まえて、文句のひとつも言わなきゃ気が済まないわ!
 うあぁ なんか急に元気になったぁ〜

 一次職がダメなんだったら
      二次職になればいいんでしょ! ほへいめ、見てなさいよ!
 …本気なんだな

 超本気よ!

 おうめさん…

 わかった、すぐにギルドを紹介してやる

 おいおい、シーフの転職場は砂漠地帯やろ
      いま行くんは危険すぎる
 今の青梅は 止めても一人で行っちまうよ
      だったら私は送り出してやる
      腕は悪くないんだ、運が良ければ何とかなるさ
 ドあほう………勝手にせえや

 モロクへ急ぐぞリン、おうめ

…………………………………………………………

 さて、どうやってモロクへ移動するかな
      走ってたんじゃ、時間が掛かりすぎる
 まいちゃんはもう居ないッスよ

 あたしは走ってでも行くわよ!

 あの〜、私で良ければお助けします

 あなた誰?

 私、ミーナといいます
      病気の母の薬代のために、兄と世界を旅していたんです
 そのお兄ちゃんとやらが、見あたらないが

 兄は前にとある騎士様から頂いたお金を原資に
      お正月にもち米を買い占めて、お餅を独占販売していたのですが……
 そういえば今年はお餅の値段がベラボウに高かったッス
      あんたのお兄ちゃんのせいだったッスか!
 はい、恥ずかしながら……
      でもそのせいで、お餅の既存業者に袋叩きにされて
      今は強制労働をさせられています
 何事も加減ってもんがあるだろ 自業自得だな

 えぇ…… それで、兄の身請けにもお金がいるものですから
      私が御代を頂いてポータルを出すお仕事をしてます
 昔ながらのポタ屋って奴だな 今時珍しい

 うん、じゃあモロクまでワープポータルお願いします

 えーとそれじゃ御代は30,000zで

 高すぎッス そんなんじゃダメッス

 えっ、そうですか? こういうの、相場がわからないもので……
      それじゃあ3,000zにします
 いきなり10分の1かよ! しかし、それでも高いな
      1,000zもあれば十分儲けがあるだろ
      青ジェムなんて500zもしないんだしさ
 おっしゃる通りですね、じゃあ1,000zでお願いします

 簡単に値切れたッス この娘は商売向いてないッス

 じゃあ、ポタだしますよー

 デビ姉、おうめちゃん待ってや〜

 止めても無駄よ もう行くところなんだから

 止めに来たんやないよ
      旦さんに、これ渡して来いって言われたんや

 これは! 超高価な回復アイテムばかりッス

 商人さん……ありがとう

 やるじゃん、旦那

 お話は済みましたか
      いきますよ、ワープポータル!(びゅわ〜ん

 おうめちゃん、気ぃつけてな〜

 うん!

…………………………………………………………………

 モロクに着いたわ さぁ、転職に行かなきゃ

 青梅、アサシンとローグ、どっちになるつもりだ

 もちろんローグよ そうじゃないと弓が使えないからね

 ローグギルドはサンダルマン要塞遺跡の近くにあるッス

 わかった ありがとう

 さっき言っていたコボルド盗賊団が出るかもしれない
      町の警備もあるから一緒には行けないが、気をつけろよ
 そんなの大丈夫 あたしの弓でちょちょいのちょいよ

 ちょちょいのちょい、とは大きく出たな ハハハ

 じゃ、あたしいくからねっ(退場

 ……笑って送り出したものの
      あいつ、一人で本当に大丈夫か
 ……心配いらないみたいッス
      おうめちゃんには強い守護神がついてるみたいッスよ
 ん? どういうことだ?

……………………………………………………

 危ないところだった
      デビ姉に助けてもらってちゃ一人前って事にならないもんね
      ちょっと怖いけど、元気出して行くわよ!

 ヒャハハハハ 俺たちコボルド盗賊団!

 うわっ 早速出たわね!

 へっへっへ お嬢ちゃん、こんなところを一人歩きとは物騒だねぇ

 どこにいくのかなー 俺たちが送ってってやろうかー

 なんなら俺たちとイイコトして遊ばなーい?

 イイコトなんてするわけ無いでしょ この犬コロっ!

 俺たちはコボルドだ 犬コロなんかと一緒にすんな

 そうだワンッ!

 おいおい、犬語出てるぞ

 おっと、興奮して思わず出ちまった

 やっぱり犬なんじゃないのよ!
      今からアンタ達のことをワンちゃんズって呼んであげるわ
 言わせておけば、好き勝手言いやがって!
      野郎ども、やっちまえー!
 あたしの弓を受けてみなさい えいっ!

 (ぷすっ)キャイーン! 太ももに刺さったー!

 よし、もう一回いくわよ!

 よくも仲間を、この斧を喰らえっ!

 わわっ 危ないっ

 すばしっこい奴め 次は外さないぞ

 三匹がかりなんて卑怯よ 矢が撃てないじゃない

 なんで俺たちがお前に矢を撃たせてやらなきゃならんのだ

 ここは一旦退却、ダーッシュ!

 あー、こらまてー

 ちょ、ちょっと、行き止まりじゃないの!

 へっへっへ ここまでのようだなぁ

 俺たちを犬コロ呼ばわりした、その償いはしてもらうワン

 こらこら、また犬語でてるぞ

 ど、どうしよう ほへい……

 妹よ、何故姉を呼ばない

 その声は!?

 人を救うは修羅の道 おぼれる者は修羅をも掴む
      できたら青梅に掴んで欲しい
      鉄の拳にまごころのせて 神速の修羅、あぷりコット参上
 あぷりコット!? なんでこんなところに!

 なんだあのふざけた奴は!
      俺たちコボルド盗賊団の邪魔をすると痛い目にあうぞ!
 痛い目を見るのはそちらだ 妹のカタキ、行くぞ!

 いや、あたし死んでないよ

 妹よ、細かい事は気にするな

 何をごちゃごちゃ言ってる! 野郎ども、やっちまえ!

 右掌底! 左正拳!! 三段掌!!!

 すごい、目にもとまらぬ速さだわ……

 キャインキャイン 覚えてやがれー

 やっぱ犬じゃないのよ

 青梅、怪我は無いか

 怪我なんてするわけ無いじゃない
      あんな奴等、あたし一人でも十分やっつけられたわ
 まだそんなことを言っているのか
      ほへいがいなきゃ何もできないクセに
 何よ、一人で何でもできちゃうあんたになんか
      あたしの気持ちなんかわからないのよ
 ……わたしは強くなれば一人で何でもできる
      そう思って修羅の道を進んだ
      しかし、修行をすればするほど
      一人では何も出来ない事がわかってきた
 どうしてよ どんどん強くなってるのに

 わたしはどれだけ強くなっても
      いつも一人の男に支えられていた
      その男の名は、ポリン仮面という
 その人は、あんたの……

 ポリン仮面はわたしの師匠であり、父であり、目標だ
      今は死んでしまっているが、故人となってもわたしを支えている
 その人、死んじゃったの?

 この拳で打ち倒したあと、ポリン仮面は自ら海に身を投げた

 どうして、そんなことを……

 わたしが未熟だったからだ しかし、後悔はしていない
      わたしはそのとき、自分ができる全てを尽くした
      だから、後悔はしない
 そう……

 背伸びはしなくていい
      妹よ、今できることを、一生懸命にやれ
 ……


 見つけたぞ さっきの恨み!

 新手が来た ここはわたしに任せて、早く行け
      ローグになってほへいの所に行くんだ

 う、うん じゃあ、あたし行くね(退場

 青梅、お前もわたしを支えている一人だ……
      さあ、犬コロども 修羅の拳を受けてみよ!

…………………………………………………………

 あたし、あぷり……お姉ちゃんの事を誤解してたのかもしれない

 ここがローグギルドね
      よし、あたしにできることを、やってやるわよ!

ではまた

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