自転車放浪記 3

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午前7時 大阪ミナミは戎橋、またの名を「ひっかけ橋」

夜はナンパ師とホストでにぎわうこの場所も今は閑散としている

そこに颯爽と現れたるは自転車「晴走雨走」号にまたがる隠居主務である

 

「隊長、こんな朝早くからどこに行くのでありますか」

「うむ、良い質問だ 我々はこれより関西空港に向かう」

「はぁ、そうですか では南海電車に乗るのですね

 特急ラピートで快適29分で関空に……」

「馬鹿者! 今、貴様のまたがっておるその乗り物は何だ!」

「は、自転車であります 隊長」

「そうだ、それならば我等の用いるべき交通手段が何なのか それくらいわかるであろう」

「また自転車で遠出でありますか

 毎度毎度変化に乏しいことですな」

「だから以前と変化をつけるために

 今回は対話形式にしておるのだろうが」

「実際は隠居主務一人で行動してるのに……」

「うるさい、黙れ! 出発するぞ 進路を南に取り、国道26号線を突き進め」

「へいへい」

 

「ということで、まずは住吉公園に到着であるな

 木が茂って緑のトンネルが出来ておるわ」

「はぁ、それがどうかしましたか、隊長」

「どうかしましたかって

 緑のトンネルを自転車で走り抜けていく袴姿の女学生とか

 そういうさわやかな光景が想像されるではないか」

「袴姿の女学生だなんて何十年前の話ですか センスが古すぎますよ」

「うるさい! とにかく、そういう光景を想像しつつここを自転車で抜けるぞ

 うひ、蚊柱だ 服が虫だらけ……うお、鼻に入った ふげ!

 むむむ、全くさわやかではなかったな」

「……隊長の顔じゃ、さわやかなんてありえませんよ」

「ん? 何か言ったか?」

「いえ、別に それより隣に住吉大社がありますんで写真撮っときましょうか」

 

「国道26号線は信号が少ないし、歩行者も少ないし、走りやすいですね」

「それは結構だが、それよりも私はトイレに行きたい」

「そうですか しかし道路沿いにはファミレスとかしかありません

 あれは11時くらいにならないと開店ませんね まだ2時間あります」

「あ、あそこに公園みたいなのがあるな そこに行こう トイレくらいあるだろう」

「なになに、池上曽根遺跡? 弥生時代中期の遺跡だそうですね

 当時の建物が復元されて一般に公開されてるようです」

「いや、そんなことよりトイレだ」

「トイレは……公園事務所の中ですね

 あれ、まだ事務所開いてないですね 10時からだそうです」

「なんと、トイレが使えぬとは

 この世ではあらゆるものが私から奪われていく」

「いや、そんな大げさな」

 

「道路沿いの目立つところに堂々と「大人のおもちゃ」の看板を掲げるとは何たることか!」

「隊長、それより隣のラーメン屋の方が問題かと思います」

 

「ふむ、岸和田に到着だ 気をつけろ」

「は? 何に気をつけるんですか 隊長」

「ここは巨人の清原の出身地にして

 毎年死人が出る岸和田だんじり祭の行われる土地だ

 交差点からいつだんじりが飛び出して来るかわからん 気をつけろ」

「いや、別に今は祭りの期間じゃないですよ」

「そうか、それなら安心だ

 ここには城があるはずだからちょっと行ってみようか」

「ではとりあえず通行人に道を訊きますね

 そこのおばさん、岸和田上にはどう行けばよろしいですか」

「ええとな、そこのらんかん橋というのの信号を渡ってな

 途中どっかで曲がったらあるんよ わかった?」

「そうですか、ありがとうございます」

「うん、わからへんかったら途中でまた誰かに訊いてな

 そこのらんかん橋というのの信号を渡ってな

 途中どっかで曲がるんやけどなんか目印とかないかな」

「はあ、わからないようならまた誰かに訊きます ありがとうござ・・・」

「うん、そう、誰かに訊いてな あのらんかん橋の信号渡って行くんやで」

「いや、もうわかリましたから ありがとうございます」

「そう、わかった? うまいこと説明できへんかってごめんね

 とにかくあのらんかん橋を……」(以下省略)

という苦労の末に辿り着いた岸和田城でありました 

 

「隊長、ぼちぼち昼も近づいてきましたね そろそろどこかでお昼ごはんを食べましょう」

「そうだな……おっ、右前方に注目」

「あ、遠くに見えるあれはりんくうタウンの象徴的建物、ゲートタワーですね」

「ゴールは目の前 昼飯は後回しだ それ走れ!」

「……昼飯たべましょうよ 隊長」

「隊長、りんくうタウンに到着しました」

「……空き地だらけだな 人も歩いてないし 何にもない」

「関空の連絡橋は自転車では渡れないようですね」

「う〜ん、とりあえず記念撮影しておくか」

「そうですね、一応ここまで来ましたってことで」

「これで終わったと思うなよ」

 

つづく

 

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