自転車放浪記5

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続き物第三弾  未読の方はこちら その1 その2

「さあ、写真も撮ったし、次はどこに行こうか」

「何言ってるんですか隊長、もう帰らないと」

「え、着いたばっかりなのに?」

「今、もう4時半ですよ

 朝7時に大阪を出てから何時間経ったと思ってるんですか」

「ぬぅ、そういえばここから大阪まで70kmも離れているのだな

 今すぐ帰っても大阪に着くのは夜中か」

「そうです だから早く帰りましょう」

 

「隊長、なんか天気が悪くなってきました」

「うむ、天気予報によると今日の天気は午前中は晴れで

 午後からくもりらしいから大丈夫だろう」

「隊長、ここは和歌山なんですけど

 和歌山の天気は見てないんですか」

「そんなものは知らん ちなみに大阪も夜中から雨らしいな」

「大阪に着くのは夜中なんですけど」

「ふむ、どのみち走るしかなかろう」

「……電車で帰ればいいじゃないの」

「ん? 何か言ったか」

「いえ、別に」

 

「歩道橋に横断幕がかかっているな なになに……」

「……」

「……」

「なにこれ? 意味わからん」

「隊長、シートベルトの着用を呼びかけるものですから

 おそらく『一緒にしようシートベルト』とかそんな感じではないですか」

「ふぅむ、そうだな」

 

「隊長、県境が近づいてきました

 2kmほど上り坂が続くはずです」

「ふむ、先は長い 自転車を押してゆっくり行こう」

「行きしに自転車乗ったまま行こうとしてすぐバテましたもんね」

「うるさい、黙れ」

 

「さあ、県境を越えて大阪府に突入

 ここから数キロに渡って下り坂だ やっほう」

「やっほうじゃありませんよ隊長

 雨が降ってきましたよ どうするんですか」

「どうするといわれても、どうしようもないな

 まあ、まだ小雨だし 大丈夫だろ」

「何を根拠に大丈夫って言ってるんですか」

「根拠? ないよ、そんなの」

「日も暮れてきましたし電車で帰りましょうよ

 南海電車の駅もそこにありますし」

「それはだめ

 我が愛車『晴走雨走』をこんなところにおいて帰れるか」

 

「こんなところにニノミヤがあるな」

「入口のところに何か書いてありますよ

 『全品、BEST電器さんより安く売ります 徹底対抗価格!』

 なんとも敵意剥き出しですね」

「ぬぬぬ、負けるなBEST電器」

「なんでBEST電器の応援をするのですか」

「いや、歌姫のところに行った時に世話になったからな」

「あぁ、BEST電器の駐車場に車を無断駐車してましたよね」

「無断ではない ちゃんと先に店に入ってカセットテープを買ったではないか」

「そのあと車をとめたまま二人で飯食いに行ったじゃないですか

 それを無断駐車と言うのですよ」

「……だから世話になったと言っておる

 そにかく頑張れBEST電器 隠居主務はBEST電器を応援しています」

「ああそうですか」

 

「隊長、そろそろお腹がすきました 何か食べましょうよ」

「うむ、そうだな」

「あ、あそこに回転寿司屋がありますよ あそこに行きましょう」

「む、あの店は駄目だ

 先月までバイトしていたファミレスのすぐそばに

 この間店を開店しやがったチェーンの店ではないか 敵だ」

「いや、そんなこと言ったら外食店みんな敵になっちゃいますよ」

「お、そうか 全部敵か わかった

 私はバイト先の店と同じチェーンの店でしか食べないぞ」

「えぇ、そんな! この道沿いに店がなかったらどうするんですか」

「行きしに店の前を通っただろ そこまで行けば確実にある」

「あんなのだいぶ先じゃないですか どこでもいいから早く何か食べましょうよ

 ほら、あそこにバイキング左近って店がありますよ」

「治部少に過ぎたるもの二つあり 島の左近に佐和山城」

「いや、石田三成は関係ないですから

 わけわかんないこと言いながら店の前通過しないでくださいよ

 ほら、あそこに天下一品が、モスバーガーもありますよ

 何でもいいから早く食べましょうよ」

「だめだ 私は義理を貫くのだ」

「そんな義理、なんにもなりませんよぅ あぁ、腹減った」

 

「……隊長、あれから一時間走りました もう空腹で死にそうです」

「そう愚痴を言うな 空腹は最大の調味料というではないか」

「いいかげんにしてください

 調味料にも限度というものがあります もう駄目 限界です」

「いや、あの、まあ…… ほら、店が見えてきた よかったな、飯が食えるぞ」

「まったく…… まあ、いいです とにかく何か食べましょう」

「よし、何を食おうかな」

「……(メニュー見て)えっと、これとこれとこれをください」

「え、そんなに食べるの? ほどほどにしておいたほうがいいと思うけど」

「あと、生ビールもお願いします」

「え、酒まで? このあとまだ30km以上自転車漕がないといけないんだけど……」

「別にいいでしょこれくらい ここまで無駄に我慢させられたんですから」

「う〜ん……」

「そんなことよりあの若い社員の動きが気になりますね

 洗浄したグラス運んできたり、皿さげてまわったり

 そんなことはバイトにやらせればいいんですよ

 社員なんだからもっとホールの全体を見て仕事しないと

 あ、またレジに走った

 横にゆっくりスプーン拭いてるヒマそうなバイトがいるんだから

 そいつに行かせればいいんですよ 何やってんだまったく」

「いや、あの、ちょっと半年ほどバイトしたくらいで

 そんなに偉そうにごちゃごちゃ言わんでも……」

「すいませ〜ん 生追加おねがいしま〜す」

「え、まだ飲むの? もう一人で3000円以上食ってるよ」

「売上に貢献してるんですよ いいじゃないですか」

 

「……隊長、ちょっと食べ過ぎまして 食後すぐに自転車漕ぐのはつらいです」

「やっぱりな ほどほどにしとけって言ったのに

 仕方がないな ゲーセンがあるからそこで休もう」

「うぅ、すいません隊長」

「さあ、ゲーセンに来たんだからゲームをしないとな

 さて、まずはガンダムでもやるか

 見せてもらおうか 連邦のモビルスーツの性能とやらを」

「……隊長、もう腹もこなれてきましたんでそろそろ行きましょう」

「当たらなければどうということはない」

「隊長?」

「私には敵が見える」

「隊長!?」

「連邦のモビルスーツは化け物か!?」

「隊長ってば! もう一時間もここにいるんですよ いい加減に行きましょうよ」

「認めたくないものだな 自分自身の若さ故の過ちというものを……」

「……この旅路自体が過ちだと思いますけどね

 あ、やっと終わりましたか じゃあ行きましょうか」

 

「むぅ、つまらん」

「は、何がつまらんのですか? 隊長」

「ここは一度通った道ではないか 帰りは違う道を通って帰るべきだとは思わんか」

「えぇ、りんくうタウンへ行くためにわき道にそれるまでは

 ずっとこの国道26号線を走ってましたからね

 でもこの道が大阪への最短ルートなんだからこのままでいいと思いますよ」

「いや、だめだ お、ここを曲がるとJR和泉府中駅があるらしいな

 ちょっとそっち行ってみよう どうせ北に向かってさえいれば大阪着くんだから」

「そりゃ着きますけど だからってわざわざ遠回りしなくてもいいでしょ ねぇ、隊長ってば」

 

「日付がかわっちゃいましたね、隊長」

「もう疲れたよ、パトラッシュ」

「私はパトラッシュじゃありませんよ まあ、疲れてるのはわかりますけど」 

「うむ、でもずっとサドルに座ってるから尻が痛くてな

 ちょっと自転車押して歩くとするか」

「そんなゆったりしてる場合ですか だんだん雨も強くなってきましたし、早く帰らないと

 ほら、大阪市に入りましたよ 下り坂ですよ」

「よっしゃ、下りか いくぞ ほりゃあ」

「なんか急に元気になりましたね あ、下り坂終わりました」

「疲れたよ、パトラッシュ」

「……もう力尽きましたか」

 

「眠い〜 だるい〜 疲れた〜」

「隊長、しっかりしてください 疲れてても自転車漕がないと帰れないんですから

 もうちょっとですから頑張って」

「光が、ひろがっていく……」

「いや、放心してる場合じゃないですよ

 あ、ほら、見慣れた建物が見えてきましたよ 天王寺ですよ 帰ってきましたよ」

「ん? え? 何? あ、あぁ 天王寺?

 おおお、着いた、着いたのか 素晴らしい

 私と『晴走雨走』号は140kmもの道程を踏破したのだ

 素晴らしい 素晴らしいぞ 私って最高 わはははは」

「いや、ちょっと浮かれすぎですよ もう夜中の1時ですし、とにかく帰って寝ましょうよ」

「……なんだ 偉業を成し遂げた直後なのにテンション低いな、お前は」

「だって、別に140km自転車で走ったって意味ないですし」

「それを言っちゃおしまいよ」

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