自転車放浪記4

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「隊長、これで終わったと思うなよ、とはどういう意味でありますか?」

「今回の自転車旅行は2万HITの記念ということになっておる

 1万の時は京都に行ったのに、2万の時にそれより近い場所で終わってよいはずがなかろう」

「……これ以上まだ進むのですか 一体どこまで?」

「うむ、あの標識を見よ」

「和歌山まで35km…… 和歌山!?

 大阪からここまでの距離とかわらないではないですか

 寄り道しながらとはいえ、このりんくうタウンまで来るのに4時間半もかかってるんですよ

 そのうえまた同じだけ進むだなんて、今日中に大阪に帰れなくなってしまいます

 無理です 無茶です 不可能ですよ」

「とても実現しようにない、という理由で実現されないものは数多くある

 だが実行されないという理由だけで困難とされるものの方がはるかに多い!」

「そんなどっかから借りてきたようなセリフ言って」

「どうせ出所は誰もわからんからいいんだよ 知らないだろ、オーストリアの宰相カウニッツなんて

 そんなことよりとっとと出発するんだ

 ……なんでこんなに向かい風が強いのだ」

「関空のあたりはいつも南から強い風が吹いてます

 だから滑走路も全て南北に伸びるように作られてるんですよ」

「そんなことは知っておるが、それにしたって風強すぎだ 前に進めぬ

 今すぐ何とかして風を止めろ」

「そんなの無理ですよ

 それより隊長、おなかすきました 何か食べましょうよ」

「うむ、その意見には激しく同意

 次に外食店があらばすぐにそこに入るこことしよう」

 

「隊長、一時間ほど走ってるんですけど、外食店一軒もなかったですね」

「腹減ったし疲れたし風強いし尻痛いし最悪だ」

「最悪なら自転車で遠出なんてしなければ良かったんですよ

 今更愚痴らないでくださいよ」

「うるさい おっと、国道26号と合流らしいぞ

 この道ならば外食店の一つくらいきっとあるだろう」

「隊長、うどう屋があります あそこに入りましょう」

「うどんか、あまり腹持ちしないが疲れてる今にはちょうどいいかな

「さあ、何を食べましょう きつね? それとも肉うどん?」

「ロースカツ丼セットお願いします」

「……めっちゃ腹持ちしますやん」

「腹も膨れて幸せや 私、もう少し頑張れそう」

「……別に頑張ったからって何にもなりませんけどね」

「何か言ったか?」

「いえ、何も それよりほら、ラブホテルがありますよ

 こんな山奥でお客なんてあるんですかねぇ」

「知らないよそんなこと それよりあの店名は何だ」

「は? 『まじめなぞうさん』ってこれが何か」

「ラブホのくせに真面目とはなんだ 真面目なことなんてしないだろ

 『みだらなぞうさん』とか『ふしだらぞうさん」とか、そういう名前のほうが相応しい」

「いや、そんなことどうだっていいでしょ」

 

「看板があるな 『ヤマザキデイリーストア900m先』とな

 そんなに離れてるのに何故看板を出すのだ」

「車向けの看板でしょ 自転車だから遠い気がするだけで車ならすぐですよ」

「ふむ、それもそうだな でも、すぐそこにセブンイレブンがあるぞ」

「あ〜 ホントですね

 これではあの看板をみてコンビニに行こうと思った人は

 皆セブンイレブンの方に行ってしまうんではないですかねぇ」

「なるほど、さすがセブンイレブン

 業界ナンバーワンの理由はこんなところにあったのか」

「いや、そんな大げさな」

 

「おお、栄養ドリンクの自動販売機があるぞ 一本いっとく?」

「こんなの飲んだからってすぐに元気になったりしませんよ」

「そんなことはわかっとる

 栄養ドリンクなんてものはな 栄養を取るためにあるんじゃないんだ」

「では何のために飲むのですか?」

「なんか薬っぽくていかにも効きそうな味がするだろ それでなんとなくだ」

「……それなら一番安い150円のでいいじゃないですか

 なんで300円のを買うんですか」

「安いのはあんまり効きそうにないような気がする」

「じゃあ、一番高い800円のにすればいいじゃないですか」

「それはもったいない」

「ああそうですか」

 

「大阪府の端っこ、岬町に到着だ

 ここにはみさき公園という遊園地があるから、そこで一枚写真をとっておこう」

「……なんですか、この象」

「みさき公園駅の前にあったから撮った ナウマン象を復元したものらしい

 こっちのほうが『まじめなぞうさん』という感じがしないか」

「いや、それはもういいですから」

 

「隊長、もうすぐ県境です」

「ふむ、ここさえ越えれば和歌山は目の前だな」

「でもこの道、ずっと緩やかな上り坂ですよ

 変速ギアでもついていればスイスイいけそうですけど」

「我が愛車『晴走雨走』には変速ギアなどという軟弱なものはついてはおらん

 信じるものはおのれの脚力のみだ 行くぞ

 どりゃ、ふんしょ、よいっしょ、ふう、ふう……

 やっぱり自転車押して登ろうか」

「……根性無し」

 

「おや?」

「どうかされましたか、隊長」

「そこに捨てられているものを見よ」

「これは……『あなたのリナちゃん』 エロビデオですか?」

「違う これは可憐な美少女との熱い抱擁を疑似体験するためのヴァーチャルリアリティツールだ」

「なんですか、そのまわりくどい言い方は」

「我がサイトは清く正しい全年齢対象サイトであるから

 こういうものの名をはっきり言うわけにはいかんのだ」

「何言ってるんですか こんな文章掲載してたくじゃないですか」

「いや、それは歌姫が書いたんだ 私は知らん」

「自分だって喜んで掲載してたくせに」

「うるさい、だまれ

 そんなことより、見よ 県境が見えたぞ」

「ああ、やっと和歌山県に到達ですね」

「うむ、ここから先は2kmも下りが続くらしい もう楽勝であるな」

「それ、帰りは上りですよ」

「うるさい そういう悲しい現実からは目をそらしておいたほうが幸せだ

 私は今までそうやって生きてきた」

「……だから留年するんですよ」

 

「坂を駆け下り、紀ノ川を越えて

 さあ、和歌山市の中心部に突入だ」

「隊長、向こうに和歌山城が見えてきました」

「うむ、あれが徳川吉宗の大河ドラマやってたときに撮影で使われたけれど

 町の真中にあるのでうっかり近所のビルも映っちゃった和歌山城か」

「そんなことどうだっていいじゃないですか

 それより早くあそこに行って証拠写真を撮りましょう」

「うむ、そうだな では城内に突入」

「おや、天守閣に上る道は階段しかないみたいですね」

「なんということだ 設計者はバリアフリーの重要性がわかっとらん」

「いや、城建てるのにバリアフリーは考えないでしょ

 むしろ、入りにくくしないと」

「く、やむを得ん 自転車を担いで上るぞ」

 

「隊長、上手く写真が撮れる場所がありませんでしたね」

「うむ、おそらくこれでは写真になったときに

 写っている自転車が『晴走雨走』であるかどうかわからないであろうな」

「では、他の観光名所にでも行って写真とって来ますか

 紀三井寺とか和歌の浦とか」

「……和歌の浦!? いやぁ! 和歌の浦いやぁ!!

 私の前では二度とその名を出すな」

「何ですか 何怒ってるんですか」

「どうせ一部の人間しかわからぬよ」

「そんな身内ネタ出さんでくださいよ」

 

「とにかく、和歌山と一目でわかる場所で写真を撮ればいいのだ 行くぞ」

「行くぞって、ここは南海電車の和歌山市駅じゃないですか

 一目でわかるとはいえ、露骨過ぎませんか」

「いいんだよ、別に観光案内やってるんじゃないんだから

 とにかく写真を撮るぞ」

「それにしても中高生が多いな」

「今4時だからちょうど下校の時間なんですよ」

「なるほどな ……おい、あれを見ろ」

「何ですか」

「あれだ あの娘だ すごい可愛い女子高生が歩いてるだろ」

「おぉ、すごい ありゃあと10年もすれば素晴らしい美人になりますよ」

「何言ってるんだ 今が食べごろ桃の年頃だろ」

「いやまあ それは好みの違いって事で」

「うむ、そうだな しかしあの娘、スカート短いなぁ

 すらっと伸びる細い脚がとっても奇麗で、おっといい風が……

 お、おお、おおお〜 おい、見たか」

「見ました」

「ピンクだな」

「ピンクです」

「素晴らしい 最高だ 風よありがとう」

「さっきは向かい風に文句言ってたくせに」

「いいじゃないか それはそれだ 今は風に感謝しよう

 お、またいい風が 見えそう 見えそう ……なぁ」

「何ですか」

「あれも写真撮ろうか」

「やめて下さい 捕まります」

 

「さあ、写真も撮ったし、次はどこに行こうか」

「何言ってるんですか隊長、もう帰らないと」

「え、着いたばっかりなのに?」

 

つづく

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