ラグナ記

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189回目「お稲荷様がみてる」



 ごきげんよう
 ごきげんよう

さわやかな朝の挨拶が、深い緑の森に囲まれた山中にこだまする。
大仏様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、
背の高い門をくぐり抜けていく。



汚れを知らない心身を包むのは、東洋の装束。
処女の着物は乱さないように、帽子のお札は翻らせないように、
ふわふわと歩くのがここでのたしなみ。
もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、
はしたないムナックなど存在していようはずもない。



私立フェイヨン女学園。
この学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、
伝統あるアンデット系お嬢さま学校である。
ルーン・ミッドガッツ王権の影響も薄く、
伝統的な様式を未だに残している緑の多いこの地区で
大仏様に見守られ、一貫教育が受けられる乙女の園。



時代は移り変わり、バージョンがβ2から何回も改まった課金後の今日でさえ、
通い続ければ温室育ちの純粋培養お嬢さまが箱入りで出荷される、
という仕組みが未だ残っている貴重な学園である───はずだったが


 遅刻ちこくぅ〜
      急がないと おっくれちゃう〜!(どたばた
 ちょっとお待ちなさい

 ほぇ、むにぃを呼びましたか?

 呼び止めたのは私で、その相手はあなた。間違いなくってよ

 むにぃは急がないと遅刻しちゃうから
      早く学園に行かないと〜〜



 まったく、はしたないですわね
      フェイヨン女学園の生徒であるなら、常に優雅でありなさい
      ほら、額のお札が曲がっていてよ(ペタリ
 あれれ、気がつかなかったです〜

 身だしなみはいつもキレイにね それでは(退場

 今の……誰だったのかな?


………………………………………………………………………………



 えーっ むにぃちゃん知らないの!?
      それって『紅薔薇のつぼみ』のそひぃ様じゃない!
 ほにゃ? 紅薔薇ってなんだっけ?

 もう、むにぃさんったらおバカさんね
      フェイヨンの神事を司る巫女が『紅薔薇様』で、
      そひぃ様はその後継者として勉強なさっている方なのよ
 お綺麗で、優雅で、素敵よね〜〜〜っ!!

 むにぃさんがうらやましいわ
      わたしもお札を曲げていようかしら
 だめだめ、そひぃ様は潔癖性だから
      だらしない格好が見つかったら、嫌われてしまうわよ
 むにぃ 怒られちゃったのかな

 そひぃ様は近づきがたい所も魅力的よね

 ねぇねぇ知ってる?
      もうじき『紅薔薇様』が巫女を引退するんだって。
      そひぃ様が新しい『紅薔薇様』になるのよ、素敵〜〜っ!!
 でも、まだ昇格が認められないって噂よ
      巫女の試験って難しいのかしら
 むにぃも勉強が苦手だから一緒だね

 何言ってるのよ、お姉さまはとても優秀な方なんだから
      いつも遅刻してるむにぃちゃんと一緒なわけないでしょ
 でも、そひぃ様が手こずる試験ってどんなものか
      ちょっと気にならない?
 ねぇねぇ、放課後に御様子を見に行ってみようよ


………………………………………………………………………………



 ジュリエット、ここがフェイヨンだよ

 静かで良いところね、ロミオ
      森の空気はおいしいし プロンテラの喧噪を忘れさせてくれるわ
 (やっぱり旅行に誘って良かった)
      のんびり観光していこう ジュリエット
 ロミオもゆっくりしていってね!


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 横暴ですわ、ソジンお姉さまの意地悪!!

 そうは言ってもね、そひぃ
      後任の選抜も出来ていないようでは、
      私は安心して引退する事ができないのよ
 ですが、急に妹を作れと言われても困ります!
      それに、わたくしは一人でもちゃんと仕事ができます
      妹なんて居なくても問題ありませんわ
 あなたが優秀なのは十分理解しているわ
      フェイヨン女学院の伝統「姉妹(スール)システム」に則って
      そひぃを妹に選んだのは、私なのだから
 ならば、どうしてわたくしを認めてくださらないの!?

 あなたは優秀すぎるが故に、頑固なところがある
      それが他者との心の壁を作ってしまっているわ
 そんなこと…

 私は巫女を引退したら、遠い国へ嫁ぐのよ
      残されたあなたは孤立してしまうわ
 ……

 閉ざされた心の持ち主では
      フェイヨンの神様に認めてはもらえない
      どれだけ優美に奉納の舞を踊ろうともね
      今のあなたに必要なのは、心を通い合わせられる人なのよ
 わかりました。そうまでおっしゃるなら、
      ここに連れてくればいいのでしょう!
      ええ、今すぐ連れて参ります!(退場


………………………………………………………………………………

 ふぁ〜 退屈
      なにか面白いことはないかなー?
      ・・・おや、見慣れない人間がいるよ 面白そー
 ジュリエット、愛してるよ

 ロミオ、私もよ



 そこの人間、アチシと遊ぼうよ

 わわっ、裸の女の子が

 ちょっとロミオ どこ見てるの!(ぎゅっ

 痛たたたた 耳を引っ張らないでおくれ

 それキツネのコスプレ?
      ちゃんと服を着ないと、風邪ひくわよ
 別に平気だよー ほ〜らほ〜ら

 わわっ、大事なところが丸見えに(鼻血

 こらー ロミオを誘惑するんじゃないの!
      ロミオもこんな子供に反応しないでよ、ばかばかー!
 お前、邪魔だなー しばらく寝てなよ(ギロリ

 ふにゃ… 急に眠気が…(すやすや

 ジュリエット どうしたんだい!
      これは・・・魔眼か!?
 お前は一緒に来い(ギロリ

 しまった、これは『魅了』の魔眼・・・

 さぁ アチシと遊ぼうよ

 ・・・はい・・・遊びましょう


………………………………………………………………………………

 ここが紅薔薇様たちの居る館よ
      ドキドキしちゃーう!
 ソジン様もお綺麗だから、緊張する…

 むにぃちゃん、少し扉を開けて覗いてみてよ
      ほらほら早くぅ
 いいのかなぁ? そーっと…

 ええ、今すぐ連れて参ります!

 わわっ、急に扉がっ

 えっ!?(ドシン!!



 きゅぅ〜

 あらあら、大丈夫かしら

 あ、紅薔薇様!

 ごごご、ごきげんよう!

 ごめんなさいね、怪我はない?

 はい、大丈夫です

 そう良かった(じ〜〜
      ちょっと耳を貸しなさい
 ほぇ?

 ボソボソ(あなた…お姉さまはいるの?)

 ボソボソ(いないです……?)

 ボソボソ(結構、言う通りにして)

 あ、あの

 お姉さまに報告します

 まぁ、何が始まるのかしら?

 先程の約束を果たさせて貰いますわ
      この娘がわたくしの妹です!

 えええ〜〜〜〜〜〜〜っ!!



ではまた

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