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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

 

第三十話

 

〜雪姫の部屋・将姫〜




「それでその、手っていうのは?」
「こちらも血を用います。」
そう言うと鬼姫は懐から小刀を取り出した。
「血って、雪姫の?」
この状態で血を失ったらマズイと思うんだけど・・・。

「いいえ、私の血です。私の結界は術者の血を用いることで飛躍的に強固になるのです・・・。」
「血って・・・アンタは大丈夫なの?」
「大丈夫です、死にはしません・・・。」
「死には、ってアンタ・・・」
さらっとすごいこと言っている。

「他に手はありません。」
鬼姫はキッパリとした口調でそう言ってから指先を小刀で指先を傷つけた。
私には見守ることしかできないな・・・。
「わかった、私には呪術のことはよくわかんないし、全部アンタにまかせる・・・頼んだわよ。」
鬼姫は強く頷いてから、自らの血で紙に文字やら印やらを書き、ベットの周りに置いていく。
「準備は整いました・・・。」
なんだ、血を使うって言ってもそんなには要らないのか。
少し安心した、その時。
鬼姫は自分の手首に小刀を当て、スッと引いた。
真っ赤な鮮血が飛び散る。
「鬼姫っ!!」
「大丈夫・・・見ていてください、必ずお姉様を助けます・・・。」
駆け寄ろうとした私を制して鬼姫が呪文を唱えはじめる。
すると鬼姫の手首からかなりの勢いでしたたり落ちる血が、床に落ちる前に蒸発するように消えていく。
それに呼応するかのように雪姫の周りに置かれた紙の印も光を発する。

「汝、呪を果たすこと叶わず。汝が主の元に還れ・・・」
鬼姫は脂汗を流しながら言葉を紡ぐ。
本当に大丈夫なのか?
次第に鬼姫の顔が青白くなっていく。
これはやはり止めたほうが良いんじゃないか・・・そんな考えがよぎる。
だけど、いつも自信なさげなあの子がハッキリ大丈夫と言った以上、それは本当だと思う。
鬼姫の力を信じるしかない。

「汝に命ず。立ち去れ!!」
鬼姫が叫び、雪姫の方をキッと睨み付ける。
名前に違わず鬼夜叉の如き表情だ。
私ですらビクッとなってしまう。

すると、雪姫の周囲に変化が起こった。
雪姫の上にのしかかるようにしている虎とも狼ともつかない不気味な獣が
うっすらと姿を現しはじめたのだ。
「グオォォォォ!!オレノエモノワタサナイ・・・グゥゥゥ・・・」
獣が鬼姫を睨み返す。
鬼姫はそれを睨み返し叫ぶ。
「汝が主の元に還り、主を贄とせよ!」
獣はひるんでいるように見える。
しばらく睨み合っていたが、やがて獣は弱々しく一鳴きすると姿を消した。

「やった!?」
思わず叫んでしまう。
すると鬼姫はにっこりと微笑み、その場でガックリと倒れ込んだ。
「鬼姫!!!」
私は慌てて駆け寄り、鬼姫を抱き留めた。
すぐにタオルで鬼姫の腕をきつく縛り、傷口を別のタオルで押さえた。
「よくがんばったね・・・。」
鬼姫に膝枕をして頭を撫でてやる。
時計を見るともう午後二時を回っていた。
私も急に力が抜けたような気分になる。
今日は学校休んじゃったな・・・しかたないか。



〜自宅・長谷川直美〜



今日は学校を休んでいた。
親には風邪をひいたみたいと言った。
両親は共働きであるし、弟も学校なので家には私だけ。
儀式を続行するには好都合だった。

しかし、午後になって呪いに使っていたロウソクが突然砕け散った。
それと同時に、どこからともなく獣のうなり声が聞こえてくる。
おそらく呪いに使った邪悪な魔界獣・バンダースナッチだ。
「呪い返し?!」
血の呪いを返すとは、よほどの術者があちらにいると言うことだ。
呪いは、失敗したり妨害されると術者に降りかかってくる。
人を呪わば穴二つ、と言うやつである。
バンダースナッチは私の命じた呪いに失敗したので、命令者である私に牙をむくのだ。

「グルルルッ・・・・ガァァァッ!!!」
獣の咆吼が私の部屋に響き渡り、
半透明に姿を現したバンダースナッチが私に飛びかかってきた。
バンダースナッチの爪が私を切り裂いたその時、
机の上に置いてあったバービー人形がチリになった。
子供の頃に買ってもらった人形に
私の髪の毛をくくりつけ呪術処理してスケープゴートにしたものだ。
私には傷一つ無い。念のため作っておいて良かった。
バンダースナッチは命令通り一人仕留めたと認識し、魔界に帰っていった。
本来、スケープゴート如きで呪い返しの影響を完全に免れるのは無理だが、
私が今契約している守護悪魔がバンダースナッチより強力なおかげで助かった。
自分の守護悪魔より強力な存在を呪いに使うのは大博打であり、私の好みではない。

「しかし、バンダースナッチも返されてしまうとはね。」
思わず溜息混じりに独り言を言ってしまう。
バンダースナッチは単純な力で言えば、この前やられた堕天使アンドラスよりも遥かに強い。
しかも、わざわざ呪いという形で使役して送り込んだのだ。
これで確実に一人は消せると踏んでいたのだけれども・・・。

あの子達を倒すには、もっと強い力が必要みたいだ・・・強大な力が。

To be continued...

 

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