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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

 

第三十五話

 

〜体育館前・将姫〜



雪姫と別れて、私は旧校舎や古い倉庫のある方へ向かうことにする。
ちょっと気まずい分かれ方だけど、今はやるべきことをやらなくっちゃね。
旧校舎の裏や、倉庫の近辺ではなんか出るって噂があるらしい。
もっとも、旧校舎は改装されて、合宿施設みたいになってるから
そんなにおどろおどろしいものじゃない。

旧校舎はグランドの向こうにある。
グランドに出るために、運動部の部室が固まってるプレハブの横を抜けようとすると、
なんか見覚えのあるメガネの女の子が一人ポツンと立っていた。
立ち止まってしげしげと観察するわけにもいかないからそのまま通り過ぎたけど、誰だっけ?
えっと・・・ああっ、思い出した。岸部君の彼女・・・井村さんだったかな?
新体操部の彼女がこの辺にいてもおかしくはないけど、
すっかり薄暗くなってるのに、こんな人気のないところにいるのは物騒だぞ。

・・・と思ったら、ドアが開く音がしたので振り返ると男の子が出てくるのが見えた。
たぶんアレは岸部君だね。
彼は彼女の元に駆け寄って二、三言ぐらい話すと校門の方へ歩いていった。
どーせ、
「ごめん!待った?」「ううん、ちょうど来たところ。」
とかなんとか言っていたに違いない。
なるほどねぇ〜、待ち合わせ中だったのか。
ちっ、心配して損した。
邪魔しちゃ悪いから岸部君がこっちに気づく前にとっと消えましょうかね。



〜運動部部室群前・井村亜希子〜



「わるい!お待たせ。」「ううん、私も先生と少しお話ししてたから。」
「それじゃ、行こうか。」
「うん。」
雄馬君が、いつものホッとさせるような笑顔を浮かべて私の隣に並ぶ。
私たちはいつも、待ち合わせして一緒に帰る。
電車が逆方向だから駅までなのだけど、その短い時間が楽しい。
「はぁ、早くなんか飲みてぇ。」
雄馬君がわざとらしくうなだれてみせる。
「あははっ、すぐ自販機があるんだからシャキッとしてよ。」
「わ〜ったよ・・・あ〜っ、今日もきつかった〜!!」
「もう、あたりまえじゃないの、この時期はどこだって大変なんだから。」
そう、まもなくインターハイの予選が始まるのだ。
この時期にだらけてる運動部なんてまずないはず。

「もう、沢田のヤツがさ、『万年一回戦落ちの我が部も今年はいけるぞ!』
 ・・・とかなんとか言っちゃってさ。オマエ、去年も同じ事言ってただろうがっての。」
彼はサッカー部顧問・沢田先生のモノマネなんかしながらまくしたてる。
「そんなこと言って。今年こそ行けるかもしれないじゃないの。雄馬君が居るんだし。」
「そこで『絶対行けるわ!』とか言えよなー。
 ・・・俺だってもちろん勝つ気ではいるさ。ところで、そっちはどうなんだよ?」
「う〜ん、去年はとっても調子が良かったから・・・今年はわかんない。がんばるだけだよ。」
「でも、そっちのセンセはもう勝った気でいるらしいぞ。
 やっぱすごいよ、亜希子は。」
屈託のない笑顔でそう褒められると悪い気はしない。
ますますがんばろうって気になる。
「・・・ありがとう。」
自然に顔がほころんでしまうのが分かる。
心なし、雄馬君の顔が赤くなった様な気がする。
彼は急に前を向いてとりつくろうように口を開いた。
「・・・よーし、俺も絶対インターハイ行くぞ!!
 ・・新体操とは日程も場所も違うけどな。」
「もう、余計なこと言わなくて良いの。・・・がんばろうね。」
「もちろん!・・・んっ?なんだ、コウモリ?」
私たちの頭上、わりと低いところを何か小さなものが通り過ぎた。
雄馬君の言う様に、コウモリにも見える。
だけど・・・今のは。。

「あっ、ごめん!私、先生に言い忘れてたことがあったの。先に行ってて。」
「はぁ?今から?・・・ん、別にいいよ、待ってるから。」
ちょっと不機嫌そうだ、ごめんね。
まったく、こんなときに・・・。
「ちょっと時間かかるかもしれないから・・・ね!疲れてるのに待たせたら悪いし。
それにほら・・・時間を気にしながら相談するのも先生に失礼だから。」
「ちぇっ、わかったよ。じゃ、また明日。」
雄馬君は一瞬すねた様な顔をしたけど、すぐ笑顔に戻り、片手を手をあげてから、去っていった。
私は雄馬君が校門から出て行くのを見送ってから人気のない芝生の方に歩いていった。
その真ん中で立ち止まり、その辺にいるはずの彼女に声をかける。
「なんの用ですか、長谷川さん・・・。」
暫く間をおいて、長谷川直美さんが出てくる。
「ふふっ、無粋なマネをしてごめんなさい。」
いつもの穏やかな笑顔を浮かべているが、暖かみは全く感じられない。
私の中で何かが危険を告げていた。



To be continued...

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