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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

 

第三十七話

 

〜校内庭園・井村亜希子〜



悪魔が近づいてくる。
さっき私に飛びかかってきた獣は私の後ろにいるので、挟まれるかたちになってしまった。
背筋に冷たいものが流れる。
すぐにでも走って逃げ出したかったけれど、
あの獣の速さからすると追いつかれて背後から襲われるだろう。
私は横を向き、両方に側面を向ける様にしてジリジリと後ずさった。
「お嬢さん、逃げられませんよ。潔くあきらめてください。」
そんな私を見て、悪魔はおどけた様な口調で言う。
あきらめるわけにはいかないので、私は霊縛輪を召喚した。
手首に飾り気のない、何か複雑に模様が刻まれたブレスレットが現われる。

「グルルル・・・・・!」
それに反応するように獣がうなり声をあげて再び飛びかかってきた。
今度はかわしきれない!そう思って身をかがめた時、
手に持っていたスポーツバックを突き破って何かが飛び出し、獣の顔に突進した。
「グワォ!」
獣は一声あげて地面に転がった。
その頭上には新体操で使うクラブ(棍棒)が浮いている。
ただし、先端部分が割れていて鮫の様な牙が覗く口があるが。
「ありがとう、インフェルノ・・・。」
悪魔が呆気にとられた様にクラブを見ている。
「・・・なんですか、それ?」
長谷川さんも眉をひそめて言った。

「怨念が強過ぎて成仏出来ない霊は危ないので私の身近な物に封じておくことにしたんです。
 これはその一つ・・・インフェルノって呼んでます。」
続けてバックからは同じく新体操の道具、リボンとボールが飛び出してくる。
ボールは私を中心に周りを回り始め、リボンは右手におさまった。
「・・・そして、このボールはデプス、リボンはバインドです。」
「オーバーソウル・・・ですか?」
「は?」
長谷川さんがわけの分からないことを聞いてきた。
「・・・わからなければ結構です。アンドラス・・・油断しないでね。」
「御意・・・お嬢さん、いきますよ!」
悪魔の右手に炎の剣があらわれ、そのまま斬りかかって来た。
「バインド、お願い!」
私は右手のリボン・・・バインドを放った。
すると、バインドは勝手に悪魔にからみつき締め付ける。
「む!?・・・この、低級霊風情が・・・ぐあっ!」
力負けはしていないようだ。
その間に獣が起きあがってきたが、こちらはインフェルノにまかせておく。
インフェルノは炎を吹き、獣を牽制して飛び回っている。
獣は守り一辺倒の様だ。

呼吸を整えて、私は長谷川さんの方を向く。
彼女は無表情にこちらの様子を眺めていた。
「長谷川さん、こんなことやめにしませんか?
 今なら、他の人には黙っておきますから・・・。」
長谷川さんは、フッ、と鼻で笑ってから答える。
「そんなことを言われて引き下がるぐらいなら・・・始めからこんなことしません。」
一体、何が彼女をここまでさせるのだろう・・・。

「言ったとおり、私は闘うためにこれを受け取ったんじゃありません。
 だけど、約束だからあの子達と闘うのは手伝います。
 ・・・それ以外はほっておいてくれませんか?」
「なるほど、筋は通ってますね・・・
 ですけど、アイテムと契約した者は、もう、未契約アイテムとは契約できない・・・。
 新しいアイテムを手に入れるには別の契約者を倒すしかないんです。
 それを貰う時にあなたも説明されたでしょう?」
「確かにそう聞いています。けど・・・だからって、なんでここまでする必要があるんです!」
「そんな事まで説明する必要は無いでしょう?」
どうあっても引かないつもりらしい。
どうしよう・・・。

その時、長谷川さんは黒の聖書を出して開いた。
「しかし、このままでは埒があきませんね。
 しかたがありません、あなたにとっておきをお見せします。
 地獄の謝肉祭を楽しんでください・・・。」
それを聞いて、バインド相手にもがいている悪魔が長谷川さんの方を向いて言う。
「くうぅっ・・・あの術は今のあなたには負担が大きいでしょう。おやめなさい。」
すると長谷川さんはポケットから、小さな丸い物・・・真珠に見える・・・を取り出して笑った。
「触媒を使えばなんとかなると思います・・・・・・偉大なる我らが父、汝が下僕を守り給え・・」
呪文?いったい何をしようというの?
「!!?」
私の足下に複雑な模様があらわれて光を発し始めた。魔法陣らしい。
あわててそこから出ようとしたけれど・・・体が動かない!?
「・・・地にまします我らが父の御名において、amen。
 ・・・・・・お別れです。」
そう言って長谷川さんが指を鳴らすと、魔法陣から無数の影が飛び出してくる。
「きゃあぁぁぁぁぁっっ!」

不気味な姿をした何匹もの悪魔が現われて、
一斉に引っ掻いたり噛みついたりしては去っていき、
次々と新しいものが現われてはまた襲いかかってくる。
私は身をかがめてうずくまるしかなかった。
デプスが私の周りを高速で回って攻撃を遮ってくれるが、数が・・・多すぎる。
致命傷にこそならないが、至る所が切り裂かれ、噛みつかれる。
このままじゃ・・・。

やがて足下の光が弱まり、消えた。
制服はボロボロで血だらけだ。
「く・・・うぅ。」
体中痛くて動けない・・・。
やがて、長谷川さんの声が聞こえてくる。
なんだかあちらも苦しそうな声・・・。
「・・・ま、まだ・・・生きているんですか・・・そのボールの・・・おかげ・・・みたいですね。」
息切れしながら何か言っているけど、私はそれどころではなかった。
どこもかしこも深い切り傷だらけで、噛みちぎられた様になっているところもある。
もう、体の感覚が無くなってきた・・・。
「ふふっ・・・と・・とはいえ、虫の息・・・みたい、ですね。」
逃げないと・・・でも・・・意識が・・・
私・・・死ぬの?


To be continued...

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