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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第四十六話

 

〜自宅前・長谷川直美〜



親兄弟を生け贄にしてもルシファーは私の呼びかけに答えなかった。
なぜ?これほどの生体エネルギーでも足りないというの?
「最初の天使にして堕天使、魔界の王ルシファーよ、我が声を聞き入れたまえ!」
しかし、駄目だった。魔界へ通じる扉は開く事もなく、
何かが呼びかけに答える気配は全くない。
「これは一体どういう事?!」
私は半狂乱になっていたのだろう、激しく取り乱していた。
それとは対照的にアンドラスは冷静に何かを考えるような表情をしていたが、
やがて何かを思いだしたように手をポンと打って言った。
「思い当たる事があります。が、ひとまずここを離れましょう。
 この国には草木も眠る丑三つ時などという言葉があったようですが、
 昨今では誰が通りかかっても不思議ではありますまい。」
「だけど、この場に生じた生体エネルギーはどうするの?」
「ふっ、問題はありません。」
そう言って悪魔が片手を掲げるとその手のひらに生体エネルギーが集まり、
視覚で確認出来るほどに凝縮されたかと思うと宝石のような塊になった。
「これで全て集まりました。さて・・・どこか身を隠すのに適した場所があればよいのですが。」
私は少し考えてから、駅の近くに廃ビルがあるのを思い出した。
「・・・駅の方に廃ビルがあったはずです、そこに身を隠しましょう。」
私が歩き出すと悪魔はカラスに姿を変えて私の後を飛んでついてきた。



〜廃ビル・長谷川直美〜



家から駅に向かって歩いた。この時間ではさすがに人通りはない。
10分ほど歩いて駅前の通りにでると、そこにビルはあった。
四階建てのそのビルには三年ほど前まではいくつかの企業が入っていたようだが、
いつしか廃ビルとなってしまい、暴走族の溜まり場になったりしていたので、
表口は厳重に封鎖されていた。
裏口に回ると非常口だろうか、ドアが一つあったがやはりカギが掛かっていた。
「バンダースナッチ、お願いね。」
バンダースナッチを呼び出して扉に体当たりさせると、ドアはあっさりと開いた。
中は暗いので、持ってきた懐中電灯をつけてあたりを見回すと、
いろいろなゴミが散らばっており、
壁にはカラースプレーによる意味不明の落書きが至る所に描いてあった。
歩くたびに舞い上がる砂埃と、使われていない建物独特の臭いに顔をしかめながら階段を上り
比較的きれいな三階の一室に段ボールを敷いて腰を落ち着けた。
外がもう薄明るくなり始めているのに気づいて時計を見ると五時を過ぎていた。
この部屋にも壁にカラースプレーで妙に凝った文字や下品な落書きなどが描かれていて、
色あせた四年前のカレンダーやポスターが貼ってあり、
そこら中に空き瓶空き缶、パイプイスや机が散乱していた。
一通りあたりを見渡してから一息ついて
カラスに姿を変えて肩に止まっているアンドラスに話しかけた。
「それで、思い当たる事ってなんですか?なんでルシファーは答えてくれないの・・・?」
「クククッ・・・簡単な事です、あなたの心にまだためらいがあるからですよ。」
「何をバカなっ!あそこまでしてどこにためらいが残ってというのですかっ!」
これ以上私に一体何をしろというのか。
カラスの姿のままなアンドラスの表情はわからないが、
またあの嫌な笑いを浮かべている様が想像できた。
「・・・主よ。あなたにはまだ愛する人間がいますね?」
「それは確かに割と親しい親戚だっていますし、
 友達もそれなりにいます・・・でもそれじゃ何人殺せばいいんですかっ!」
しかし私のその言葉に対してカラスはゆっくりと首を横に振った。
「そういう意味ではありません・・・
 なるほど、確かにそれらの人間を生け贄にすれば
 赤の他人よりは大きなエネルギーとなります・・・
 しかしそんなものは先ほどの肉親達と比べれば微々たるものだ。
 私が言っているのは、あなたが想いを寄せている異性のことですよ。」
その言葉を聞いて自分でも頭に血が上るのがわかった。
頭で考えるより先に否定の言葉が口から飛び出す。
「・・・そんな人いませんっ!」
「ほほぅ・・・クックックックックッ・・・主よ、悪魔であるこの私に嘘をついても無駄ですよ。」
悪魔は心底楽しそうに笑った。
「違うんですっ!そんなの昔の話です、
 あの人には彼女がいますし、私はもう何とも想ってなんかいませ・・・」
そこまで言ってから私はしまったと思ったが後悔してももう遅かった。
「ハッハッハッハッハッ!・・・語るに落ちるとはまさにこのこと、
 たとえ悪魔に嘘はつけても自分は騙せないようですな。」
「っ・・・・。」
言いかえそうとしてもなにも言葉が思いつかなかった。
「ふふふ・・・その男も生け贄に捧げてしまいなさい・・・
 所詮あなたの想いに気づかなかった男でしょう?
 さあ、想いなど全て捧げて楽になるのです。
 そうすれば必ずやあのお方も答えて下さるに違いありますまい。」
「・・・・私はもう寝ます、あなたもバンダースナッチも私が呼ぶまで消えていなさい!」
「おやおや・・・御意。」
そういうと悪魔は姿を消し、バンダースナッチも一声鳴くと姿を消した。
私は段ボールの上に横たわり、目をつむったが
悪魔の言葉が何度も頭の中をこだまして寝付けなかった。

しかし、それでもいつの間にか眠りに落ちていたようだ、
外を見ると日は明らかに傾きかけている。
時間はすでに午後三時をまわっていた。
堅い寝床のせいか体のあちこちが痛んだので立ち上がって伸びをし、体をほぐしていった。
あらためて周りを見渡し昨夜のことが夢ではなかった事を確認する。
もう私は、いきつくところまで行く以外にないのかもしれない・・・。
これからどうするべきか・・・本当にこれで良かったのか・・・
段ボールの上に再び腰を下ろして考え事をしているうちに日が落ちてしまった。
不思議というか当然というか、食欲はまったくなかった。
これだけのことをしでかしてから悩むなど我ながら愚かにもほどがあるとは思ったが、
立ち上がる気にもならなかった。
そして外もすっかり暗くなってしばらく経ってからだろうか。
突然にバンダースナッチとアンドラスがそれぞれイヌとカラスの姿で実体化し、
インプまで私の頭の上に乗っかってきた。
「・・・なんですか、呼ぶまで消えていなさいといったはずでしょう?」
しかし、よく見ると三匹とも周りを異様に警戒しているのがわかった。
「いったいどうしたっていうの?」
若干声を落として尋ねるとアンドラスが小声で答えた。
「しっ、静かに。妙な気配が致します、動かないでください。」
「妙な、気配・・・?」
私がそう言ったときバンダースナッチが獣の形態に姿を変えて低くうなり始めた。
「ふむ、なかなか優秀な番犬ですな。」
悪魔はそれを見てつぶやいた。
「バンダースナッチ、どうしたの?」
尋ねたがバンダースナッチは何かに対して威嚇するばかりだ。
その時、妙に幼い感じの甘ったれた声が聞こえてきた。
「あれっ、気づかれちゃったんだ。」
どっちから聞こえているのか方向がわからない、不思議な聞こえ方だった。
まるで四方をスピーカーに囲まれているみたいだ。

私たちの間に緊張が走った。
「だれっ!?」
懐中電灯を付けてあたりを見回すが、人の姿は見えない。
「無駄だよっ、あとそれから、動くとあぶないからそのままで聞いてね、センパイ。」
「何を言ってるんですか・・・!」
「ああっ!ホントに動いちゃダメっ。
 そうだなぁ、足下に転がってる瓶をどこでもいいから投げてみてくれる?」
悪意は感じられなかったので、
警戒しつつも言われたとおりに足下の瓶を拾ってひょいっとほおり投げてみた。
すると私の手から離れた瓶は私から1メートルほど先の空中で
音も立てずにいくつにも切断されて床に落ちた。
「!・・・・これは・・・。」
余りの事に絶句していると、また声が聞こえた。
「あははっ、こういうことなんだー、だから動かないで聞いてね?」
甘ったるい声の主はまったく無邪気な調子で私を脅し、話し始めたのだった。



To be continued...

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