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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第六十二話


〜放課後・献姫〜

雪姫との話し合いを終えた後、小テストの添削などを手早くすませて、
早速今日から件の女の子を捜すことにする。
あちらも生徒や教員との接触を望んでいるなら、
主要な通学路を当たればさほど手間取らず見つかるだろうと考え、
最初に一番利用者の多い赤口町駅へ至る道を歩いてみると、
程なくして何やら生徒達が道端で言い争っているのに出くわした。
慌てて駆け寄ってみると五人の生徒が、おそらくうちの生徒ではない女の子を取り囲んでいた。
「ちょっとちょっと!あなた達、何やってるの?」
「あ、先生。なんかこの子が・・・」
私に現状を説明しようとした生徒の言葉を遮って、
女の子が私に掴みかかるような勢いで近づいてきた
「先生なんですか?だったら知ってますよね、長谷川直美のこと!」
・・・もう見つかったか、ラッキーだなぁ。

「え、ええ。ちょっと落ち着いて。」
「何でもいいんです、あいつのことを教えてください!」
なだめても一向に落ち着いてくれない。まるでなにかに急かされているようだ。
少女はなかなか凄まじい形相で私の服をひっつかんでいる。
まいったなぁ・・・。
「さっきからそんな感じで、全然話にならないんですよ。」
「そうなんすよ。ちょっとそいつおかしくないすか?」
確かにちょっと尋常ではない。
まず、目がこちらを向いていても何か別のものを見ているような感じで、
何かに憑かれてるみたいだし、
目の下に隈もできていて、やつれている。かなり疲労しているように見える。

「ふーん・・・わかったわ、私の知っていることは教えてあげるから。
 少し落ち着けるところに行きましょ?
 さ、あなた達もこの子は私に任せて帰りなさい。」
「おねがいしまーす。」
生徒達はなんやら口々にぶつぶつ言いながら駅に向かって歩いていった。
「さて・・・」
「お願いします!早く、早く教えてください!」
「う、うんうん、わ、わかった、わかったから。
 立ち話もなんだし、いい喫茶店あるのよ、そこ行きましょう?」
それでもこっちの話なんか聞いちゃいないこの娘を
半ば強引に引っ張り込むように喫茶店に連れてきて、
一番隅っこの周りに誰もいない席に座らせた。
「ふぅ・・・さて、あなたもコーヒーでいいかしら?」
「そんなのいりませんから!早くお話を聞かせてください!」
・・・だめだこりゃ。とりあえずコーヒーを二つ注文しておく。
「えっとね、こんなところまで連れてきてなんだけど、
 私もテレビでやっているようなことぐらいしか知らないのよ?」
「そ、そうですか・・・・。そうだ、あいつと親しかった人とか知りませんか?!!」
なんだろう、この子、長谷川直美に対する強い憎悪を感じる。
アイツとか長谷川直美とか言うときの目が危険だ。
「あなた、長谷川直美さんと何があったの?」
こちらからの問いかけに初めて反応があった。
恐怖、怒り、憎しみ・・・いろんな感情が彼女の表情に表れる。
「!・・・そ、そんなこと・・・ん・・・くっ・・・」
少女は突然頭を抱えて脂汗を流し始めた。
「ちょっと、大丈夫!?」
「ん・・・だ、だいじょうぶ・・・です・・・。」
何かを振り払うように頭をブンブンと振ると彼女はこちらに向き直った。
「あなた・・・長谷川さんと何かあったのね?」
「ちがう、ちがいます!」
「それじゃ、なんで長谷川さんにこだわるのかしら?」
「ち、ちがうんです、なにも・・・」
それより後はつぶやくような声でよく聞こえなかったけれど、
「どうせ信じてくれない」とかいう言葉がかろうじて聞き取れた。
ということは、何か俄に信じがたいような出来事があったわけだ・・。
「あなた、何か普通じゃ考えられないような目に遭わされたんじゃないの?
 誰も信じてくれないような出来事があったんでしょ?」
そう言うと、彼女ははっとしたようにこちらを見た。
「そうなんでしょ?全部話してみてくれないかしら?
 ・・・私はあなたの言うことを決して疑ったりしない。全部信じるから、ね?」
私がそう言うと、彼女はわなわなと震えだし、
今までの思い詰めたような固い表情が一気に崩れ始め、声を上げて泣き出してしまった。
私は彼女の隣に座り、彼女が落ち着くまでその頭を抱きしめた。

そして、彼女は声を詰まらせながらぽつりぽつりと、今まであったことを聞かせてくれた。
出会った化け物のこと、目の前で彼氏を殺されたこと、呪いをかけられたこと。
そして、帰って両親に話しても何一つ信じて貰えなかったこと、
精神科に連れて行かれて入院させられそうになったこと。
そうして、彼女は家を逃げ出して来たそうだ。
こんなに辛い思いをして誰にも信じて貰えないというのはさぞ堪えただろう。
「よしよし、しんどかったね。あなた、よく頑張ったわ。そういえば、まだ名前聞いてなかったわね。」
「・・・深澄です・・・新藤深澄。」
「深澄ちゃん、もしかしたらあなたの呪い、解いてあげられるかもしれないわ。」
「ほ、本当ですか・・・!?」
「断言はできないのがつらいところだけど・・・とにかくわたしと一緒に来てくれる?」
「は、はい!・・・でも、あなたはいったい?」
当然の疑問ではある。
「この喫茶店も人が増えてきたし・・・続きは私のうちでいいかしら?」
「わかりました・・・。」
勘定を済ませ、こちらで私が住んでいるアパートに向かう。
徒歩で通勤できるなかなか快適な住処である。

「狭いところだけど上がって。」
「はい、お邪魔します。」
やや緊張気味に深澄ちゃんが入ってくる。
行きがかり上、けっこうぶっちゃけ話をしなければならないので、
唯姫様にお願いして少々記憶をいじって貰うことになるだろうから、
どうせなら呪いも何とかして貰おうという腹づもりである。
とりあえず、適当に座って貰って現状を説明してあげよう。
「さて、何から話せばいいのかしらね・・・。実は、私もちょっと不思議な力を持っていてね。
 長谷川さんとはまた違うんだけど。
 で、長谷川さんにあの力を与えた黒幕がいるわけなんだけど、そいつを追っているのよ。
 普通ならこんな与太話信じられないでしょうけど、あなたなら大丈夫でしょう?」
「信じます・・・私のこと、信じて貰ったし・・・それに。あの女は、あの力は・・・普通じゃないです!」
ヤバイ、また取り乱しちゃうかも。
「うん、そうよね。普通じゃないわ・・・。それで、私らの親分みたいな人がいてね。
 その方ならあなたの呪いをどうにかできるんじゃないかと思って連れてきたわけよ。」
「お願いしますっ・・・わたし、このままじゃ・・・おかしくなっちゃう・・・!」
「わかった、少し待っていて。」
私は電話の受話器を取って、唯姫様のホットラインをプッシュすると、
1回のコールですぐに唯姫様が出た。
「もしもし、どうしたのですか?」
「唯姫様。少しお願いが。大変申し訳ないのですが、こちらの世界にご足労願いたいのですが。」
「・・・私を呼びつけるとはいったい何事ですの?訳を話してご覧なさい。」
「ええ、実は・・・」
かいつまんで説明してみる。
唯姫様は高飛車だし厳しい人だが道理が通っていればこちらの願いは大抵聞いてくれる。
たぶん、来てくれると思うのだけど。

「・・・わかりました。その少女も言ってみれば私達の起こした騒動の被害者。
 何とかしなければなりませんわね。」
「恐れ入ります。それでは、お待ち申し上げております。
 ・・・・ふうぅ、OKよ。来てくださるって。
 すぐにお見えになると思うけど、お茶でも入れるわ・・・って・・。」
ほんの短いやり取りの間に、深澄ちゃんはすうすうと寝息を立てていた。
精神的にも肉体的にも限界だったのだろう。
寝ている間ぐらい呪いの光景を忘れられればいいのだけど。

深澄ちゃんに毛布を掛けてあげてから、小一時間ほど部屋の掃除なぞしていると呼び鈴が鳴った。
のぞき窓から見てみると、紛れもなく唯姫様だ。
普段はどこぞの王室の正装みたいなドレスを着ているけれど、
さすがに今日はシックなスーツだ。いい服着てるなぁ、いいなぁ。
・・・まあ、それはいい。そそくさと玄関を開ける。
「恐縮です。宜しくお願いします。」
「いえ、あなたこそ、よくやってくれていますわ。いつもご苦労様。」
一挙手一投足優雅な動作で、唯姫様が部屋に上がってくる。
「この少女ですね。・・・どれ・・・。」
唯姫様がぐっすり眠っている深澄ちゃんの側にそっと座り、その額に手を当てる。
「どんな感じでしょうか?」
すると唯姫様はいくぶん表情を曇らせた。
「なんとかできないことはありません。ですが・・・本人に確認しなければならないことがあります。
・・・深澄さん・・・目を覚まして下さい。」
唯姫様がそう言うと、深澄ちゃんはゆっくりと目を開いた。
そして、唯姫様を見るなり身体を起こして礼をする。
たぶん、私が唯姫様のことを知らなかったとしても、起き抜けに目があったらそうするだろう。
エンプレスの威圧感のなせる業だろうか。
「よいのです、楽にして聞いて下さい。私はあなたの呪いを解いて差し上げることができます。
 ・・・ですが、あなたにかけられた呪いは、
 あなたが恋人のことを忘れたくないという気持ちを利用しているのです。
 従って、呪いを解くには、あなたから恋人にまつわる記憶の一切を奪わなくてはなりません。
 ・・・それでもよろしいですか?」
それを聞くと深澄ちゃんは真っ青な顔になって首を横に振った。
「そんなの嫌です!絶対、絶対に嫌です!」
半泣きになりながら首を振る深澄ちゃんを唯姫様はとても悲しそうな顔で見ていた。

しかし、やがていつもの表情に戻ると、深澄ちゃんの肩に手を置いた。
「ならば、私はあなたにもう一つの選択肢を与えます。
 私は、あなたに、長谷川直美なる人物に対抗しうる力を与えることができる。
 それを受け入れ、あなたが自らの力で敵を倒し、自らの運命を乗り越えるという道です。
 ただし、この力を受け入れれば、あなたは別の世界の住人となり、
 もう二度と今の生活には戻れません。
 加えて言えば、それで呪いが解けるかどうかは、わかりません。
 しかし、なんにせよ呪いを抱えたまま生きるというのならば、あなたも強くあらねばなりません。
 さもなくば、あなたはいずれ発狂するか、自ら命を絶つことになるでしょう・・・。」
深澄ちゃんの顔は一層蒼白になった。あまりに酷な選択だった。
「唯姫様、それは・・・!」
「残念ですが、二つに一つです。おそらくこの呪いをかけた者は解くことなど考えていません。
 術者を殺しても解けないと考えた方が良いでしょう。
 ・・・それから献姫。
 あなたには、抜けた聖姫に代わるメンバーを捜すという任務も与えたはずですわよ?
 もし、彼女が加われば一つ目的が果たされるのです。こういう形はいささか不本意ですけれども。」
「ですが、しかし・・・。」
あまりに悪質な呪いだった。
私は長谷川直美に会ったことはないが、憤りを感じずにはいられなかった。
「お願いします・・・。力を・・・下さい・・・。」
「深澄ちゃん、あなた・・・。」
「嫌なんですっ!自分だけ何もかも忘れて・・・
 自分だけ弘紀の事忘れて何事もなかったかのように生きるのも、
 今のままでずっと怯えながら生きていくのも・・・嫌!絶対に嫌っ!
 それだったら、自分の手でなんとかしたいのっ!」
私は、本当は彼の記憶を消してしまった方が
深澄ちゃんは幸せに生きられると思う。だけど、ああ、もう!

「・・・あなたの決意、確かに受け止めましたわ。あなたにアイテムを与えましょう。」

そして、深澄ちゃんは、私達の仲間になった・・・。



To be continued...

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