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著:ショウさん(@愚者の書庫)  絵:えもん氏

真闘姫 〜THE GIRL'S STRUGGLE FOR EXISTENCE〜 

第六十三話

〜深夜の自室にて・佐伯 勇輔〜

最近何もやる気が起きない。
ベッドに横たわってぼーっとしているうちに寝てしまったようだ。
自分の携帯電話の音で目が覚めた。
その辺に転がっているはずのケータイを手探りで見つけ出し、
目をこすりながらディスプレイを見ると『非通知』と表示されている。
非通知なんて誰が出るか。どうせまたなにかの勧誘だろう。
すぐに切って再び眠りに就こうとするが、間髪入れずにまたかかってくる。
切っても切ってもすぐにかかってくるのだった。

・・・知り合いだろうか?
いや、少なくとも自分が番号を教えた中で非通知でかけてくる奴はいない。
十回目ぐらいで根負けして電話に出て、
少々不機嫌そうに「はい、どちら様?」と言ってやったが何も返事がない。
「おい、いたずらならいいかげんにしろよ。」
そう言って、切ろうとするとようやく声が聞こえてきた。

「ふふ、よかった・・・やっとでてくれましたね?」

少女の声だった・・・しかも間違いなく聞き覚えのある声だ。
必死に思い出そうとするが、どうにもうまく思い出せなかった。

「あの、誰ですか?」
「ショックです・・・分りませんか?」
・・・女の子から、こんな意味シンな電話を貰う覚えはないのだが・・・。
「あの、番号間違えてませんか?」
「長谷川です。長谷川直美。」
長谷川・・・長谷川直美・・・。
長谷川直美!?

もやがかった頭の中が突然ハッキリしたような気分。
・・・いや、それを通り越して思考が一瞬でショートした。
「長谷川さん!?ぶ、無事だったんですかっ!どこにいるんです?!」
「あはは、無事ですよ。まあ、落ち着いて聞いてください。
 今からちょっとお会いしたいんですけど、お時間取れますか?」
「は、はい!もちろんです!」
今度は心臓の鼓動が一気に激しくなるのがわかる。
「ありがとう。実はあなたのお家の近くに居るんですけれどね。場所は・・・・」

長谷川さんの指定した場所は歩いて3分ほどと場所にある小さな、いわゆる三角公園だった。
半ば気が動転していたが、眠っている家族を起こさないように静かに、いそいで家を出た。



〜小さな公園・忌姫(長谷川 直美)〜

"冷血の"雪姫との戦闘で受けたダメージはかなり深手だった。
以前の私なら三回ぐらい死んでいるに違いない。
私の身体は変質していて、魔力を細胞に効率よく瞬時に変換できるようになっていたのだが、
普通の行動に支障がない程度まで回復するのに丸一日かかってしまい、
動けるようになったのは、ほんのつい先ほどだ。魔力もほとんど空っぽ。
身を隠すのはかなりうまくなったと思うのだが、この状態で一人というのは少々心許ない。
そこで、忠実な従者を手に入れようと考えたわけで。

アンドラスからもらったイブニングドレスを着るのもどうかと思い、
久しぶりに制服に身を包んで彼が来るのを待った。
・・・足音が聞こえる、予想よりずっと早い。
かなりいそいで走ってきたようだ・・・演劇部員の佐伯勇輔君。

従者を誰にするか考えているうちに、
大分前、七瀬が言っていた「佐伯の奴、アンタに気があるみたいよ。」
という言葉を思い出して電話してみたが、どうやら本当だったようだ。
私を確認するなり、さらに速度を増して駆け寄ってきた。
「長谷川さん!無事だったんですね!!」
息を切らせながらも心底嬉しそうな顔をしている。

「こんな時間に呼び出してごめんなさいね・・・。」
「いえ、いいんです。でも、いったい今までどうしてたんですか?」
もっともな疑問だ。しかし、彼には申し訳ないが説明するわけにもいかない。
沈痛な面持ちを作ってゆっくりと距離を詰める。
彼が少々緊張して身を固くしたのが分った。
「いろいろありました・・・実は、あなたに御願いしたいことがあるんです。
 佐伯勇輔さん、聞いて頂けますか?」
「はい、僕に出来ることならなんでもします!」
少々うわずった声でかくかくと首を振る彼が滑稽で吹き出しそうになってしまったが、何とかこらえる。
・・・承諾一回。

さらに距離を詰め、両手でそっと彼の右手を取る。
外灯が一本しかない、この真っ暗な公園でも、彼の顔が一気に赤面したのがハッキリ分った。
ここで一気に詰めようか。目を潤ませて彼の瞳を覗き込むように顔を近づけると、
身長差はたいしてないので真正面で向き合うような形になった。
「ありがとうございます・・・実は私、ちょっと困ったことになってしまって、力を貸して欲しいのです。
佐伯勇輔さん、私に力を貸して頂けますか?」
「ぼ、僕、長谷川さんの為ならなんでもやります!!」
彼の表情は赤面を通り越して今にも頭から湯気が上がりそうだった。
必死で笑いをこらえながら演技を続ける。
・・・承諾二回。

あと一回だ。畳み掛けてしまおう。
彼の手を離し、ひしっと抱きしめる。
佐伯君は茫然自失と言った感じで、完全に固まってしまった。
ごくりとつばを飲む音が聞こえる。勝利を確信する私。
「うれしい・・・約束ですよ、ずっと私と一緒にいて下さいね、佐伯勇輔さん?」
「は・・・・い・・・・。」
ほとんど自分でも何を言ってるのか分っていないのだろうが、
これで承諾は三回目、契約は成立した。

フルネームで呼びかけて相手の承諾を得る。古い呪いだ。
この時、例え、自我喪失状態だろうが、拷問にかけて無理矢理だろうが、
三回諾と言わせれば契約が成立する。

さて、晴れて佐伯勇輔君は私の従僕となった。
身体を少し離して両手を彼の頬に添えて引き寄せ、目を閉じ、唇を重ねる。
唇を離して目を開くと、彼は信じられないと言うように目を見開いていた。
「ごめん、嫌だった?」
訊ねると、彼はブルブルと首を横に振った。動作がもうめちゃくちゃだ。
なんというか、こういう状態を「メロメロ」と言うのだろうなと、漠然と思った。

ちなみに、この口づけは彼の心を利用してしまったことへのささやかな謝罪と呪いの強化だ。
よくよく考えてみればこれは私のファーストキスだったが、
もはや今更そんなのは気にすることでもないだろう。

「それじゃ、新しい隠れ家を探しに行きますか。
『私についてきなさい。あなたを人間を捕る漁師にしてあげよう。』・・・ふふふふ・・。」

彼は、私の言葉に黙ってこくんと頷き、後をついて来た。
記念すべき私の第一使徒の誕生だ、奮発して使い魔には地獄の公爵・サブノックを付けてあげよう。



To be continued...

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